古谷田奈月『星の民のクリスマス』を読んであらためて日本ファンタジーノベル大賞の傾向を考えた。対策など無い。

古谷田奈月『星の民のクリスマス』読了。

2013年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。選考会議でもめちゃくちゃ揉めて、椎名誠は棄権、萩尾望都と小谷真理の「スペック採用」的な推しで大賞受賞に至ったという問題作。(結果的に二人は慧眼だったわけですが)

序盤のスピード感の無さや講評でも散々指摘されている世界観・設定の読み取りづらさなど、よく下読みや二次を通ったなと驚くような作品ではあります。

一方、序盤の超もっさりゾーンを抜けた後はロードウォリアーズのプロレスみたいな展開。相手の技を受けずにパワースラムとラリアットの連発で5分以内に試合を終わらせるスタイル。ひたすら出たとこ勝負の暴走ファイト、設定はその場その場で継ぎ足して話を進めていって、最後は投げっぱなしジャーマンスープレックス。

とはいえ圧倒的な暴走ファイトで審査員を納得させて日本ファンタジーノベル大賞をもぎ取ってしまったわけで、古谷田奈月のその後の活躍を考えても、受賞は「正しかった」と言えるかな。

これまで日本ファンタジーノベル大賞/優秀賞受賞作はそれなりに読んできましたが、大賞と優秀賞の違いはが何となく見えてきました。

少なくとも中断前の選考に関して言うと「バランス良く上手く書き上げられた作品」よりは「未完成だけれどパワーが異常な作品」が勝っている気がします。佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』、池上永一『バガージマヌパナス』、森見登美彦『太陽の塔』、遠田潤子『月桃夜』、銀林みのる『鉄塔 武蔵野線』、弘也英明『厭犬伝』、そしてこれ。

酒見賢一『後宮小説』は完成度もパワーもあったですけどね。

優秀賞の『青猫の街』『仮想の騎士』『闇鏡』あたりはアクセルの踏み方が若干、甘い気がします。SAN値を使い残してると書いたらわかりますかね? こっち路線だと中村弦『天使の歩廊』がありますが、あれは完成度が極めて高かったと思います。

そうそう、「日本ファンタジーノベル大賞 下読み」で検索して来る方が結構いらっしゃるので、以下、私見を書いてみます。

まず、日本ファンタジーノベル大賞の下読み・一次審査、二次審査プロセスは、ラノベやエンタメ系とは基準が違う可能性がかなりあります。中断前に関して言えばこれは間違いない。歴代の大賞受賞作は電撃やポプラ社や講談社ラノベ文庫やファンタジアあたりに出したらたぶん即死のような作品です。

※いい意味で言っています。それで森見登美彦、遠田潤子、堀アサコ、古谷田奈月など堂々たる文壇の大物を輩出してきたわけですから。

一方で、再開後の日本ファンタジーノベル大賞はキャラクター文芸的な『鬼憑き十兵衛』が大賞を取ったりもしていますから、最終に関しては中断前ほど「狂気」への配点は高くない気がします。

※若干キャラ文芸的な要素もある『約束のはて』の終盤の怒涛の展開は狂気と呼んで差し支えないレベルであることも事実。

ただし『隣のずこずこ』『迷子の龍は夜明けを待ちわびる』は中断前の日本ファンタジーノベル大賞っぽい作品でそれぞれ大賞・優秀賞ですから、狂気攻撃や非なろう系・非ライト文芸系のローファンタジー(つまり純文学テイストが強いもの)でも一次・二次は通過出来るということです。

私に言えるのはここまでです。

2021/6/15 追記

現在の選考委員のうち森見登美彦・恩田陸の両氏は異世界ものは得意ではないと明言していること、また過去の大賞受賞作を見てもヨーロッパ中世・近世風異世界ファンタジーでの受賞作は無い(はず)ことを考えると、現状ではよほどのトリッキーなコンセプトを冒頭から展開しない限りヨーロッパ風異世界もので日本ファンタジーノベル大賞を取るのは難しいと思います。そういうものでデビューしたかったらよそを当たった方が良いのではないか。

中華ローファンタジーの方が遥かに好成績を納めてますね。『僕僕先生』みたいな。

2021/11/22 更に追記

再開後の日本ファンタジーノベル大賞に関しては過去の受賞作分析云々よりも210000円(税別)を払ってゲンロンSF講座に参加するのが一番大事だと考えます。なにしろ4人の受賞者のうち2人を輩出していますから。創元SF短編と早川SFとファンタジーノベル大賞を狙うならつべこべ言わずに大森望先生に教えを請う。創元と早川と新潮の編集者もゲスト講師で来てるわけで、むしろゲンロンに通わずにこの3賞を勝とうと思う方がおかしい。お前はいったい何考えてるんですかというレベルです。つべこべ言わずにカネ払え。カネが先。話はそれからだ。

なお、今年のファンタジーノベル大賞一次通過・二次落選だった私の作品、応募前にゲンロンSF新人賞受賞者にも読んでもらったのですが、その方にだけ明らかに不評でした。その方以外にはかなり好評だったという事実も、次回以降のファンノベ挑戦者の皆様の参考になれば。私は撤退します。

健闘を祈ります。