書評:佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』

佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』読了。1991年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
日本ファンタジーノベル大賞は『後宮小説』とこれで路線が決定的になった感がありますね。

内容は佐藤の好きな20世紀初頭のドイツを舞台にしたピカレスク幽体離脱ドタバタ漫才ロードムービー小説とでも言いましょうか。かなり面白いです。

終盤の伏線回収がちょっと駆け足すぎるのと、最終バトルの展開が強引すぎてラノベっぽさを感じたのとがチャームポイントですかね。はい。終わりの方はルパン3世の映画みたいなノリです。なんかよくわからないドタバタに定番のヒトラーネタをかませてスケール感を演出して強引バトルからの大団円。冒頭のスノッブなノリのままで最後まで行くより断然好きです。ちょっとB級っぽさがあって。

文体は(影響を受けているのかどうか不明ですが)田中芳樹の銀英伝を一人称にしたらこうなるだろうなというスタイルです。デビュー作とは思えない完成度の高さ。この辺は佐藤亜紀の才能がビンビンに感じられる部分。田中もですけど、内外の純文学を大量に読んで筋トレしてきた人という印象ですね。

ラノベだけを大量に読んでラノベを書く、時代小説だけを大量に読んで時代小説を書く、新本格ミステリーだけを大量に読んで以下同文、SFだけ以下同文、みたいな育ち方とは違うタイプの人たちだったな田中芳樹や佐藤亜紀は、ということを考えました。

なかなか真似の出来るものではないですし、ラノベで育った今の20代30代がこれを受け付けるかどうかよくわからないですが、「日本ファンタジーノベル大賞 傾向」で検索してきたそこのあなたは必ず読むべきです。勉強になりますよ。異世界転生チート魔法学園俺ツエーゲン金沢モテモテ焼け野原みたいなの送っても絶対勝てないですからね。

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