恩田陸の発言にびっくり
小説新潮を確認。
日本ファンタジーノベル大賞2021決定発表号。
選評でいきなり恩田陸がファンタジーは手段であって目的ではないと言い切っていてずっこけた。
ファンタジー小説好きがファンタジー小説を書き、読むのはファンタジーが目的なんだよ!
ミステリー小説ファンはミステリーが目的で買うんだろ。ファンタジーも同じじゃ!
あの世でル・グウィン先生が激怒してるぞ。
ファンタジーが目的じゃないなら新潮新人賞長編部門にしろ。
ちなみに私、見間違いかと思って最初は調布パルコのリブロで1冊だけあった小説新潮見たんだけど、調布トリエのくまざわ書店まで杖ついて歩いていって見直しましたもん。「え、俺見間違いしてる? ファンタジーは目的じゃないって恩田陸言った?」って。
言ってました。まあびっくり。藍銅ツバメの「鯉姫婚姻譚」だけがファンタジーを手段にして恋愛ものを書けていたから大賞に推したと言ってたけど、なら別に国際結婚とかのプロットでええやんけ。アホかいな。
恩田陸以外の選評ですが、森見登美彦はファンタジーは何か論には踏み込まずに作品の作りについてのクールな分析を展開していました。
でも個人的なハイライトはヤマザキマリ氏の「(最終選考に上がった作品の)主人公がみんな似たような陰キャばかり」(要約)という指摘。
「愛情との向き合い方がわからないので他者の思いを素直に受け止めることができず、自分に好意的に接してくれる人に対してどうしても冷たく当たって更に孤立する。生まれてきたことを謳歌するよりは怨嗟を抱き、家族を含む全ての人間関係に否定的。
— 吹流しの恋 (@magoi_overhead) November 25, 2021
これもまた王道のパターンなのか、今回も4作品のうち3作品にそういった立ち位置にある人物がお約束のように登場する。」
— 吹流しの恋 (@magoi_overhead) November 25, 2021
そのまんま今の文芸のトレンドを言い当ててるって感じ。スッとした。
さて、気を取り直して、最終で落とされた諸作品。選評を読む限りどれもあと少し手を入れればエンタメ作品として充分売り物になりそうなものばかり。なんとか世に出て欲しいです。あと、桧口りょう氏がカクヨムに最近出したのはあらすじから判断して別作品ですね。堀井拓馬氏の作品も絶対読みたいです。これだけ作者の思い入れがあるんだから、弱点はあっても長所もあるに違いない。出たら絶対買うよ。
日本ファンタジーノベル大賞とり逃したのほんと悔しい!
— 堀井拓馬 (@nebuta_crimson) November 24, 2021
きっと少なくない数の人から長く愛してもらえる作品だと思ってるから余計に。
初めて書いたホラー要素のない長編小説だから思い入れもあるし
で、大賞受賞作品の藍銅ツバメ「鯉姫婚姻譚」。
受賞発表前からゲンロンSF講座関係者がツイッターではしゃいでたんで、ああこれはまたゲンロン出身のあの人に行ったなと思ってたけど、もちろん実力無しのコネで勝ったわけでないことは確か。文章は直すところが無いくらい上手い。藍銅ツバメ氏、プロ作家としてやっていける人だと思います。内容は日本昔話の異種婚姻譚を陰キャのあんちゃんが淡水人魚に幾つも語るという話。まあ純文学ですね。過去受賞作品なら「桃月夜」に似てますかね。
とはいえ、これをファンタジー小説として売るのは誰も得しないと思いますが。
というわけで日本ファンタジーノベル大賞、応募者にとっては最終で恩田陸にカテエラにされかねないし、勝った人もファンタジーノベルというブランドより純文学の大型新人登場! で売ってあげた方が売り場でのカテエラ回避出来るしで、やはり新潮新人賞長編部門に看板変えるべきというのが私の結論。いくらゲンロン関係無いですと言ったところで、新潮社の文芸第二部元編集長がゲスト講師で出入りしていて、主宰者はファンタジーノベル大賞立ち上げ時代の編集者。そこの道場生が4回のうち2回の一等賞を手に入れるってのは、なかなかに興味深い現象です。市場がそれをどう見るか、ですからね問題は。
ゲンロン講師がさっそく有料配信で藍銅さんを読んで「お役立ち情報」を語る。
無事に終了しました。延長をかけてからがお役立ち情報、というのはいつもの通りです。
— 菅 浩江 SF作家 (@Hiroe_Suga) November 29, 2021
通常の #ネコ乱 より価格を抑えていますので、みなさまアーカイブでもお祝いをどうぞ!
藍銅さん受賞おめでとう企画 https://t.co/r0Wg131O5y #シラス @shirasu_io
ゲンロン講座OBの方のツイート。やっぱりコツがあるのかな。
今晩21時からのこちらの番組に賑やかし役としてぼくも出ます!日本ファンタジーノベル大賞受賞者の藍銅ツバメさんゲスト回!
— 遠野よあけ (@yoakero) November 29, 2021
受賞のコツを聞けるかもしれないし聞けないかもしれないぞ!(コメントで質問すればたぶん聞ける)#シラス https://t.co/wnDdoHuroT
ブランドマネジメントとしてはかなりマズい。売上の数字として毎年5万部くらいはコンスタントに売って、受賞者も順調に次の長編を出してという形で結果が出ているならともかく、現実にはそうなっていないですし。つまり、現状は市場からそっぽを向かれているし人材育成としても失敗している。
あるいはストレートにゲンロンの協賛をつけて新潮社ゲンロンSF大賞とでもしたらどうか。ゲンロンSF講座受講者は一次審査免除でいきなり二次選考から入れるようにして。21万円と消費税を払って下読み迂回出来るならみんな払うでしょう。カテエラ応募爆死も無くなるし、経済も回るし。WIN-WINです。ファンタジーは目的じゃないって公言する人が審査員やってる「日本ファンタジーノベル大賞」はもう良いです。Fed up with it!
そして私は新潮社ではなく角川の売上に2610円貢献して帰宅。
息子に頼まれたノーゲーム・ノーライフ11巻とソードアート・オンライン23−25巻。
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私が読むわけではない。でも、こっちのがファンタジーノベル大賞よりは遥かにファンタジーへの敬意や愛情や熱狂をもって作られていると私は思うから、こっちにカネを払うよ。
看板だけファンタジーじゃなくて、本当に朝から晩までファンタジーのことばかり考えているファンタジー馬鹿ばっかりが集まる祭典、あると良いんだけどなあ。純文学やSFを書きたい人・出したい人が「でもしか」でやるやつじゃなくてさ。
11/27追記
世界観設定の重要さについてはこちらの連ツイにまとめてあります。
海外の童話や「オズの魔法使い」「ナルニア」みたいな古典的名作を除くと、私がハイファンタジーにハマったのはナンシー・スプリンガーの「Book of Isle」シリーズ。そっから早川FTを読み漁り、当時勃興してたTRPG記事をタクティクスやシミュレイターで読み漁り、自分でも異世界の設定作ったりしてた。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
その異世界がしっかり作り込まれていて魅力的なら、それだけで満足。お話なんか単純で良い。その世界で主人公が旅をして、冒険をして、恋に落ちて、結ばれる。それだけで十分なんですよ。話は定型的だけど、その定形が展開する世界に情熱や思想が込められていれば、物語は唯一無二になる。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
ファンタジーは手段であってよい、目的ではなく手段であるべきだという意見について。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
大前提として、そのような意見「も」正しいと私は考えます。その上で私の見解をもう少し詳しく書いてみます。
サイファイヤー砲ならSF、究極魔法サイファイヤーならファンタジーです。作者はどちらを選ぶことも出来ますが、今回は究極魔法サイファイヤーでカトーを爆散させることにしました。この時ファンタジーは表現手段ですが、同時にファンタジーでしか表現出来なものを目的としても選ばれています。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
主人公の4人の仲間たちが生命をかけて地水火風の四大元素の魔力を全開放していくシーンから、全ての魔力が主人公の両手に集まり、魔人カトーを木っ端微塵に破壊する。これこそファンタジーでしか表現出来ない何かではないか。サイファイヤー砲も良いですが、究極魔法サイファイヤーで私は倒されたい。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
これは、例えば中世イングランドには中世イングランドの気候・植生・文化・法律・政治システムがあって、そこを舞台にボーイミーツガールを書くならば、現代日本を舞台に書くのとは違う物語に自ずとなっていくことと同じです。現代日本で出来ることが中世イングランドでは出来ないのだから。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
この前提を置いた時、実在した世界でなく作者がある思想や意思のもとに注意深く作り上げた異世界を舞台にしたならば、その世界が登場人物に許可し、あるいは強いる行為行動の範囲・方向は、それそのものが重要な文学表現であると、少なくとも私は考えています。恩田陸がどう考えるかはわかりません。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
ありがとうございます。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
そういう意味ではハイファンタジーは近代文学とはズレた領域なんですよね。
近代文学は基本的に【個人の内面】に注目して、その変化を語ろうとします。(ここではポスト近代文学は除外していますが、恩田陸は管見の限りではポスト近代文学を書く人ではないと理解しています) https://t.co/vXjHeususg
例えて言えば旧約聖書の創世記のようなものをハイファンタジーの創作者は書いたりもします。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
では、創世記に思想は無いのか? 創世記に文学的価値は無いのか?
ここで「無い」とはさすがの恩田陸も言わないでしょう。であるならば、創世記の形を模倣して作家が世界の成り立ちを語ることはどうなのか
日本のオタク用語としての「世界観」を作り語ること、それ自体を美的・文学的に享受し解釈しその価値を評価することが経済的に成立していて、それは明らかにファンタジーノベル大賞の生み出すキャッシュフローより桁が大きいことの例証としては、様々なフィクション作品の設定資料集をあげられます。
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
恩田陸が自分は近代文学の範疇にある小説しか読めないand/or読まないし、それしか評価しないという立場に立つのは自由です。でも、一方で「設定資料集でファンタジー文学をやって何が悪い?」と主張するのも同じように自由です。ユリイカだって永野護総特集やったんだぞ。https://t.co/ChzKNC2Y20
— KATO kosei / Ph.D / Consultant and Designer (@sd_tricks_kato) November 26, 2021
【特別付録:あなたのファンタジー小説をどの公募に送るべきか】
チェックポイント1:「あなたのファンタジー小説は中華後宮もの、あるいは異世界恋愛ものですか?」
YES→集英社のノベル大賞に出しましょう
NO↓
チェックポイント2:「あなたのファンタジー小説はライトノベルあるいはキャラクター小説ですか?」
YES→KADOKAWAで合いそうな公募を探してください。
NO↓
チェックポイント3:「あなたのファンタジー小説は児童文庫で出せる可能性は無いですか?」
ある→講談社青い鳥文庫小説賞か角川つばさ文庫小説賞かポプラズッコケ文学新人賞をおすすめします
ない↓
チェックポイント4:「あなたのファンタジー小説は一般文芸として売れるのではないですか?」
そうかもしれない→ポプラ社小説新人賞へ
一般文芸としては癖が強すぎるので無理かな↓
ああ、とうとう来てしまいましたね。それでは日本ファンタジーノベル大賞に挑戦するための準備を始めましょう。
以下のチェックリストを全てクリアするのが条件です。
- 主人公は家族関係をこじらせた陰キャに設定しましたね? 陽キャは死亡フラグです。
- 物語の舞台は中国・中華風か日本・日本風か19-20世紀のヨーロッパに設定しましたね? ヨーロッパ風異世界は死亡フラグです。
- ゲンロンSF創作講座で公開されている作品を20作品以上読みましたね? ゲンロン講座を受講するか、ゲンロン講座生になりきるのが勝利への近道です。
- ファンタジーノベル大賞を取っても2冊めを出してもらえない覚悟はありますね? 柿村将彦、大塚已愛、高丘哲次、岸本惟の4人とも2021年11月26日時点で新潮社からは受賞作しか出してもらってません。新潮ミステリー大賞を2018年に取った結城真一郎はもう3冊出てますけど。Are you OK?
以上をクリアしたら、GO! 健闘を祈ります。
2022年11月3日追記
2022年の最終選考には見た限りではゲンロン勢はいなかったです。
去年は電話で編集部にゲンロン優遇してるのかって問い合わせた人すらいたらしく、さすがにやりすぎたと思われたんですかね?
一方、再開後の受賞者2冊め出ない飼い殺し問題は継続中です。