私がミルヨウコ「Pink Love 喜多川歌麿「歌満くら」12枚の内の第9図のオマージュ」を買った四つの理由。

それでは私が何故「余白のアートフェア福島広野」出展作品の中で一番最初にミルヨウコさんの「Pink Love 喜多川歌麿「歌満くら」12枚の内の第9図のオマージュ」を買ったのか、その理由を説明していきましょう。

まずは作品画像ですよね。

やばっ!

なんだこれは。

それが最初の印象。

元になったのはこれです。

おっさんの顔が(笑)

これをクマちゃんとウサギちゃんのセックスに変換したミルヨウコさんの発想がまず凄いです。

さてさて、日本の春画は今では欧米でも高額で取引されています。

例えばこの「歌満くら」の12作品セットは2023年にクリスティーズで22680ドル、その日のレートで327万4456円で落札されました。なかなかのもんです。

ですが、実は実はおどろくほどに、そのオマージュ作品って無いんですよね。これは春画全般なんですが。美術史的に春画の影響を受けていると言われるものはありますよ。マネの「草上の昼食」とかさ。

でも構図まで引用して、完全に元の絵がわかるようなものって、意外に無い。皆無ではないんでしょうが、超有名な例って、あったかな? どうだろ。

そこがまず評価ポイントでした。

評価ポイント1 有名な春画をダイレクトに引用している。これは珍しい。

次に作品の成り立ちです。

ミルヨウコさんはこれまで本の装丁画やイラストの仕事をこなしつつ、個展やグループ展でも絵を発表してきた人です。活動を開始されたのが2000年から2001年頃なので、もう四半世紀ですね。国外での展示も多いですが、いわゆる現代アートではない立ち位置でしたし、画風もPixiv系のものではない。アニメやマンガ風の人物画が本の装丁に使われるようになったのは1980年代の朝日ソノラマとかコバルト文庫からだったと思いますが、その系統、その流れよりも一時代前の画風です。実際、ハヤカワ文庫や創元での装丁画の仕事もあります。

そこも私にとっては評価ポイントでした。

Pixivからカオスラウンジや村上隆のカイカイキキによって日本の現代アート業界に持ち込まれたアニメやマンガ風の人物画は、現在では「キャラクター絵画」と呼ばれていますが、ミルヨウコさんはプレPixivとでも言えるような画風で、キャラクター絵画的なものを描いている。

端的に言って珍しいわけですよ。

しかも早川文庫と創元推理文庫での仕事があるってのが大きい。

ラノベしか知らん世代の人には実感沸かないかもしれないですが、ラノベが角川によって作られるまでの日本のSF/ファンタジー/ジュヴナイル文芸は早川と創元が両雄で、そこに徳間(新井素子は徳間も結構多かった)、朝日ソノラマ、コバルト(集英社。少女小説系の総本山)、角川文庫(たとえば田中芳樹の「アルスラーン戦記」はここが出した)が加わって生態系を作っていました。

だから私から見ると、「プレラノベ時代の装丁画の画風で描かれたキャラクター絵画的な作品」という、過去40年くらいの日本のSF/ファンタジー/ジュヴナイル文芸の歴史が入った絵ということになる。

評価ポイント2 プレラノベ時代の画風によるキャラクター絵画的な作品である。1枚で日本のSF/ファンタジー/ジュヴナイル文芸の歴史を貫いている。

そして絵の内容そのものも素晴らしいです。

汚いおっさんが赤い薔薇を体中に散らしたピンク色のクマに描き変えられている。

赤い薔薇はキリスト教では愛とキリストの受難の象徴です。

クマは同じくキリスト教では圧倒的な力(善悪いずれも)の象徴です。

同じようにキリスト教の文脈ではウサギは多産や豊穣、あるいは優しさや庇護されるべき存在を表すものとして登場することが多いとされています。

ってことはこれ、どういう意味になるの?

圧倒的な力を持つ父性、あるいは家父長制的なものが、庇護されるべき存在を組み敷いている。その先には多産も含意されている。

一方で、完全にセックスに没頭しているクマちゃんと、冷静な目でこちらを見つめ返しているウサギさんという構造は、フェミニズムの方法論でも解釈が出来そうです。

皆までは書きませんが。

こうした多義的な解釈を可能にする図像も、評価ポイントでした。

評価ポイント3 伝統的な西洋絵画のイコノロジーとフェミニズム、そのどちらでも(あるいはそれ以外のアプローチでも)解釈出来る複雑で多義的な図像。

最後にもう一つ。

ミルヨウコさんは前述のように狭義の現代アートの界隈の外で画業を続けてこられた方なので、昨今の「アート」ブーム、お洒落消費雑誌で取り上げられるようなアート作品や作家の世界からは完全に死角になっている場所にいる。

つまりは、その方面では一切知られていない。

これも評価ポイントです。

誰も知らないようなものの良さ、価値を自分で発見して、それを買う。これこそがコレクターの基本でしょ。広告費が飛び交っているような場所で「すごい」「いま注目の」とか書かれたり言われたりしている時点でそれはもうマネーと承認欲求ゲームのカードになってるんです。

そういうもんじゃない、俺だけが発見したこの絵の価値を、さっとクレカで押さえる。

めっちゃ優越感です。だって俺が最初に発見したんだからねこれ。他の誰にもわからなければなお良い。むしろ、わからないでくれ。

そういうことです。

評価ポイント4 誰もが見逃している場所にあった俺だけの名品。

ありがとう。美味しくいただいてしまいました。