内資老舗名門出版社群におけるマーケティングやデザインの不在感

創元から最近単発で出た非なろう系国産ハイファンタジーを読み進めている。

発売直後に買って初速にも貢献したはずなので、ストレートな感想を書くくらいはゆるされるだろう。

作者はSF畑のベテラン。上橋菜穂子作品に風の谷のナウシカと戦闘妖精雪風(1作目)と進撃の巨人をミックスしたような作品。作者が書きたいものを思う存分書いている感じ。

当たり前だが、良いところもあれば悪いところもある。

トータルのクオリティとしては、公募に出したらどこでも一次は通ると思われる。終盤戦まで残れるかどうかは公募によるだろう。ファンタジーノベル大賞や早川SFなら二次か最終まで行くかもしれない。KADOKAWA系や集英社やポプラ社だと二次以降は厳しいはず。メフィストも座談会まで行ける可能性は高くない。

それはそれで良い。各社の経営方針によって市場に出す作品のデザインが違うのは当然だ。それが多様性に繋がる。

とはいえ、大きな疑問も持った。

「この小説は、市場の中の誰にどんな形で刺そうとしてデザインされたのか?」

ターゲット顧客層のペルソナが見えてこないのだ。年齢層は? 趣味嗜好は? これのどこがターゲット読者にどう刺さり、結果としてどんな体験を書籍代の対価として提供したいのか。

そういうことが作者と編集者とデザイナーの間で議論されて「トータルでB2C商品として」仕上げられた気配が無い。商品としてここは必要なのか、より広い層に訴求するには何を残し何を足し、どんな書影をつけてどうプロモーションすべきか。そういうことをデザインしているようには思えない。

敢えてターゲットを定義するならば創元というレーベルの固定ファン、作者のファンなら買ってくれるだろうし、値段分は満足してくれるだろうというようなコンセプトで発売された商品に思える。

せっかく「非なろう系ハイファンタジー小説を老舗名門から出す」プロジェクトだったのに、もったいない。

なろう系ほどの規模ではないにせよ、非なろう系の上質なハイファンタジーへの顕在ニーズは日本市場にもある(上橋菜穂子が売れているんだから)。なろう系で育った人々の「その次」としての潜在ニーズもあるだろう。

どうせなら、そういう、より大きな市場の開拓・開発を狙って欲しかった。

もしかすると、そういう、より大衆性・娯楽性の強い小説を発表することが、SFコンやゲンロンSF講座やブンゲイファイトクラブをハブとして創元・早川・新潮社ファンノベ大賞というレーベルに固定でついている(数千人の)ファン・コミュニティに受け入れられないという判断があったのかもしれない。

だが、全体として少子高齢化していく創元早川ファンノベの固定ファン市場に頼った同人誌の延長のようなビジネスがいつまでも続けられるとも思えない。

5月に電撃の下読みの人が、創元・早川で出すようなものをそのまま電撃に応募しても勝ち目は無いというようなことをツイートしていたが、問題は電撃やファンタジアみたいな作風と、おそらく市場規模は1万人を割るであろう創元早川ファンノベ風の間の市場が放置されていることだろう。