ここはアルザス・・・・・なわけないだろ

 東京都が「今後の景観施策のあり方について」というテーマで意見募集をしています。
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/topics/h17/topi028.htm

 景観については私も色々と言いたいことがあるので、金曜日は午前中で仕事を片付けると、早速自転車に乗って野へ漕ぎ出しました。私が東京都というか私の地元で守るべき景観の筆頭に挙げたいのは、府中崖線周辺、そして多摩丘陵の縁です。これらはいずれも、標高差数メートルから数十メートルの崖にまとまった緑地が残されている風景で、多摩川サイクリングロードを走っているとよくわかるのですが、要するに長い長い時間をかけて多摩川が削って出来た段差なんですね。今の季節はどちらの崖線も見事な紅葉に彩られていて、なんとも見応えがある。崖線というと既に東京都は国分寺崖線、つまり多摩川の支流である野川沿いの崖線を景観保護の対象としているんですが、あちらの方がより都心に近いせいもあって、既にあらかたはマンションと宅地になって消えてしまってるんですね。

 だから、崖線といえば府中崖線、そして多摩丘陵の多摩川側ですよ。

 ところがね。私驚きました。この崖線も既に至る所で寸断されている。完全に宅地化されてただのコンクリートの崖になったところも多いし、崖の際まで宅地化されてしまっているところも多い。府中崖線はさほど標高差が無いので、二階建ての家が建ったらもう見えなくなっちゃうんです。これはまずい。せめて崖線の周囲50mで良いから宅地化を禁止して緑地帯として保全できないもんか。

 そんな暗澹たる気持ちになりながら、府中崖線の中でも一つのクライマックスである「ママ下湧水群」に至った時、私は我が目を疑いましたね。ほんの数ヶ月前までは存在しなかった金網が崖線の上側をビッシリと覆い尽くして、至る所に「ゴミ捨て禁止」の看板が備え付けてある。要するに現在でも雑木林である崖線というのは、格好の不法投棄場なんでしょう。しかも。

 その金網の脇には、フランスはアルザス地方の古民家を思わせるようなパステルカラーの建て売り住宅がいっぱい建ってました。こんなもんあったか、ここに? そのまま府中崖線が多摩川の現在の土手に合流する辺りまで行くと、今度は東京都指定の旧跡で江戸時代の文人、伊藤単朴なる人物のお墓の真後ろに、やはり真っ黄色の偽アルザス風建て売り住宅が!!!!

(この画像の後ろの黄色いものです)
http://www.sky.sannet.ne.jp/y-shida/galerry/garelly.htm

この画像では小さくてよく分からないですが、実際に現地に行かれると目眩がしますよ。なんたるミスマッチ。

まあ、家を建てるなとまでは言わないでおきましょう。現在の土地利用政策では代替わりの時には相続税対策で農地を売り飛ばすしか無いですから。農地を農地のまま買う人も今の農業政策下ではちょっとおらんでしょう。結果、開発業者がペンシルハウスを建てて分譲することになる。まあそれはしゃあないわな。

だけどさあ。何でアルザス風なんでしょうか。しかも旧跡のど真ん前、距離にして1メートルのところに。建物の内側ならもう完全に個人的な空間ですから、どんな設えをしたって自由ですよ。ですが建物の外壁は公共空間に面してますからね。家の中にいたら外壁なんか見えないんだし、そこまで個性を出すこともないんじゃないっすか。

たしかにアルザス風民家、それ単体で見れば素敵ですよ。これはこれでアルザスという土地で磨き挙げられてきた様式美がある。実際私はアルザス地方を旅行したことがありますが、ライン河に沿った丘陵地を縫って走るワイン街道の民家は、もう反則なくらいにかわいらしくも美しいもんです。

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ですがそれを武蔵野の風土の中に置くと、もう木に竹を接ぐとかそういうレベルでは表現しようもない、異様な佇まいですよ。一方、今度は府中崖線沿いの道をずっと東に走っていくと、都指定有形民俗文化財の旧柳沢家という、これは本物の古民家が保存されています。

http://www.keihin.ktr.mlit.go.jp/tama/walk/waterside/guide/m08.htm

私はこちらの古民家も、アルザスの古民家に負けず劣らず素敵なデザインだと思います。となれば、どうして武蔵野の古民家をデザインモチーフに使った建て売り住宅の十や二十も見あたらないのか? 

日本の建て売り住宅のデザインをしている方々というのがどういった人種なのか、私は寡聞にして存じませんけれども、アルザス風の外壁デザインをするより、武蔵野風の外壁デザインで魅力的な建て売り住宅を造ってみる方が、よほどチャレンジングだし意義深いと思うんですがねえ。違うかな。