ハヤブサラストショットトートの見本の仕上がり待ちの間、色々なインプットに励みます。
昨日読んだのはこれ。
室町時代の京と奈良で飛び交った怪異の噂話を、僧や貴族の日記と軍記物文学を史料に分析し、その働きと終焉を解説しています。
怪異というのは、仏像や神像にヒビが入ったとか、建物が突如壊れたとか、誰もいないはずなのに鬨の声や笑い声が聞こえたとか、怪物が目撃されたといった現象のこと。
中世日本ではこうした怪異が公文書に真面目に記録されて、朝廷や室町幕府に届けられていました。これは神仏が鎮護国家を担うという思想があったためで、怪異というのは凶兆を予め神仏が為政者に知らせて、このままだと困ったことが起こるぞと警告しているというように解釈されたわけです。
この仕組みを更に非公式文書である日記類(中世の日記は今でいう業務日報で、貴族や僧が後継者に業務内容やノウハウを引き継ぐために極めて詳細に書かれていました)と突き合わせて見ていくと、怪異の情報を発する寺社とそれを受け取る朝廷や幕府それぞれの思惑や政治的駆け引きが見えてきます。
また、怪異は基本的に凶兆ですから、文書類だけでなく京や奈良の街でも日々、怪異の噂が飛び交い、人々はそれの情報を交換しあい、分析し、未来の凶事に備えようとしました。
こうした状況は室町時代を通して続き、細川政権や三好政権といった近世初期の武家政権の登場から織豊政権やそれに続く徳川幕府という安定した政権への移行とともに消えていったといいます。
何故ならば、室町時代は足利尊氏の時代から義満、応仁の乱、細川政権、両細川の乱に至るまで常に不安定で、次に誰が政権を取るかわからないし、法制度も治安もグダグダだったのに対し、織豊政権以降はまともな行政が成立していたので、怪異情報というものがあまり重視されなくなったからです。
立教の史学科の同期(英語や体育が同じクラスだった)の清水克行くん(明治大学教授)の研究が沢山引用されていたのがちょっと嬉しかったり。
あと、細川政元って日本の為政者として唯一、自他ともに認めるゲイだったと思うんですが、彼が主要キャラとして登場する伝奇小説シリーズ「天狗妖草子」はちゃんとゲイ設定とか怪異の話とか取り込んでいて面白かったなあ。著者が早世して未完で終わったのがちょっと残念。