『ハリー・ポッターと賢者の石』はファンタジーの物語構造分析のサンプルとして非常に使いやすかった

今更ながらに『ハリー・ポッターと賢者の石』を読んでみたんですが、良く言えばベーシックで教科書通り、悪く言えば全てがベタな作りで、驚きました。

新しさを感じたのは、サブカルチャーとしての魔法使いの文化が、中世的なアイテム群を20世紀末の消費文化の枠組みで記述しなおして描写されている部分。あれは素晴らしいアイデアでした。

さて、今、日本で大流行の異世界もの(転生、往還、滲出などスタイルは各種ありますが)が何故異世界プロットを使うのかと考えると、意図的かどうかは別として、読者世界(とここでは読んでおきます。我々が生きている世界のこと)との対比により、世界にツッコミを入れることが出来るからだと理解しています。

異世界転生/移行/往還ものの源流を辿れば『ガリバー旅行記』『オズの魔法使い』や『ライオンと魔女』、異世界滲出ものは『メアリー・ポピンズ』辺りなのだと思いますが、ああした古典が世界へのツッコミを文学的な比喩の範囲でやっていたのに対して、今のラノベは極めて直截的に登場人物にツッコミを言わせます(日本語ツイッターの大喜利に非常に似ているものを感じます)。

そこまで直截的ではないですが、そういうスタイルの呼び水になったのが、この「ハリー・ポッター」シリーズなのかなと思いました。

それ以外でも、躊躇い無くストレートにファンタジーのベーシックな道具群を使っていて、逆に勉強になりました。様々な部分で、「可能であったけど使われなかった選択肢」を容易に思いつけるので。

画像は『ハリー・ポッターと賢者の石』を読みながら私が取ったノートをささっと清書したものです。

中盤以降、物語の進行キューの大半がエラーと禁忌侵犯だったのがかなり残念でしたね。ダチョウ倶楽部みたいな。
子供向けだから仕方無いのかな? でも人物造形がペラいのは間違いない。わざわざ戦う前に謎解きをしてくれるラスボス、イヤボーン。これが売れたんか。

こちらは日本ファンタジーノベル大賞に出してみたやつ(「竜の居ない国」)を同じシートで分析したもの。やっぱひねくれてる。