『薔薇の冠 銀の庭』は極めて真っ当かつ高品質な恋愛小説だった

1984年に久美沙織が集英社コバルト文庫にて発表した小説です。27年間「積読」状態だったものを昨日読了しました。

コバルト文庫は朝日ソノラマ文庫と並んで今日のライトノベルの源流とされるレーベルです。

たしかに若者視点の一人称饒舌叙述の技法を殆ど一人で完成させてしまった新井素子先輩もコバルト文庫に数多く書いていますから、そういう理解も決して間違いではない。

ですが、こちらを読むと、ライトノベルとは全く違う系統の日本文学の流れの中にある作品です。

私はむしろ村上春樹の『ノルウェイの森』との相似を強く感じました。ちなみに本作はあれより3年早く出ています。ものすごく大まかにあらすじを書きますと

「主人公の葦伸くんは高校2年次に1年間アメリカ東海岸に留学して帰ってきて、現在は19歳の高校3年生。出発前、生徒会の1年後輩で才色兼備の玲子ちゃんと付き合っており、玲子の親も公認の仲だった。しかし帰国してみると玲子は構ってちゃんをこじらせており、奇行を繰り返して葦伸くんを困惑させる。一方、2年後輩で玲子と葦伸に憧れる園芸マニアの野枝実ちゃんは、玲子が奇行を繰り返す間に葦伸くんと急接近。バンドマンの彼氏とも隙間風が吹き始める。物語の中盤を過ぎたところで葦伸は玲子と別れて野枝実ちゃんに告白するのだが、玲子に憧れる野枝実ちゃんは真に受けてくれない。また葦伸に捨てられた玲子の奇行は激化。甘い葦伸を困らせる」

こじらせた構ってちゃんの女の子が奇行を繰り返して主人公を困らせるとこなんて、『ノルウェイの森』そっくりです。

が、こちらのが3年早い。山口智子主演のドラマ「ロングバケーション」よりも13年早い。

懐かしのキャッチホンも小道具として出てきて、ああ、あったよねこういうシチュエーション・・・・としみじみしました。

コバルト文庫ではなくハードカバーで出ていて出版社の営業部が気合い入れて売っていたら、恋愛小説の名作として歴史に残っていたかもしれません。私は『ノルウェイの森』よりこっちのが好きだな。

ちょっとリライトして今からでも電子出版で売ってみたら良いのに、と思います。ちなみにオリジナル版の電子書籍はこちらで購入出来ますよ。

コバルト文庫、調べてみたら氷室冴子や新井素子以外にも唯川恵、山本文緒、角田光代、小室みつ子、藤本ひとみなど錚々たる人材を輩出しているレーベルですが、まともに取り上げた研究が皆無です。ラノベ研究はポピュラー文化研究としてお盛んなのに、もったいないですね。文学研究としても表象文化研究としても、ここは未開拓かつ、やれば面白い研究が山ほど作れる資源の宝庫でしょう。