『何かが道をやってくる』と『トーマの心臓』

そういえばレイ・ブラッドベリもファンタジーの範疇に入る作家だった。読んだことがあるのは
 
  • 『太陽の黄金の林檎』(The Golden Apple of the Sun, 1953)
  • 『何かが道をやってくる』(Something wicked this way comes, 1962)
 
前者には「霧笛(The Fog Horn)」という短編が収録されていて、日本ファンタジーノベル大賞の審査員である萩尾望都がこれを漫画にしている。また野田秀樹が夢の遊民社で演劇にした萩尾望都の「半神」の冒頭とラストシーンはこの「霧笛」からの引用だ。
 
後者は誤訳が多々指摘されている古い訳で、創元から1964年に出ている。今だに新訳は出ない。原文を少しだけ見たが、あれを日本語にするのはとてつもなく難しい気がする。少なくとも自分だったら断る(誰がやっても絶対にボロカスに批判される火中の栗だ)。
 
ただ、萩尾望都つながりでさっき気づいたのだが、萩尾望都が「トーマの心臓」(1974)でオスカーに「三時まえ 一番人が死ぬ時間だな」という台詞を喋らせているのは、たぶんこの小説の前半、闇のサーカスが深夜3時に町にやってきた時、主人公の父親のチャールズ・ホロウェイが午前3時は人が最も絶望して死にたくなる時間だと言っているのをサンプリングしたものだ。
 
何でそんなことを今書いているのかというと、日本ファンタジーノベル大賞に応募する小説の最終章での主人公とメインヒロインの関係が、『何かが道をやってくる』のチャールズ・ホロウェイとその息子の関係(つまり父と子の関係)にどことなく似ているかもしれないと思ったからで、『何かが道をやってくる』のラストシーンの最後の1行のテイストを、何とかして写し取れないかと、試行錯誤していたのである。
 
結果、たった44文字の文章を書くのに1時間かかってしまった。ちなみにメインヒロインの名前は(後から気づいたのだが)教え子のあだ名と同じである。さっきそれを知らせたら笑っていた。