緊急事態宣言下で『風と木の詩』を読んだ

竹宮恵子は『地球へ…』は読んだことがあったのですが、こちらは機会が無く未読のままでした。

風と木の詩

しかしながら日本ポピュラー文化史上不滅の金字塔、重要さ間違いなくSランクのこれ、決して読みたくないわけではなかったので、文庫版を取り寄せて一気に通読してみた次第です。

印象深かったのは以下の2点

1) 道具立てが萩尾望都の『トーマの心臓』『ポーの一族』とほぼ同じ。

    • 男子校の寮が舞台(『トーマの心臓』、『ポーの一族』の「小鳥の巣」)
    • 運命的な出会いをした少年二人の話(『トーマの心臓』のユーリとエーリク/トーマ、『ポーの一族』のエドガーとアラン)
    • 物語の途中で片方は死ぬ(トーマ、アラン)
    • 妙にものわかりの良い先輩キャラ(『トーマの心臓』のオスカー、バッカス)
    • 妙に可愛い後輩キャラ(『トーマの心臓』のアンテ)
    • 可愛い妹キャラ(『ポーの一族』のメリーベル)
    • ゲイカップルやゲイのセックスがありふれている舞台設定

 竹宮恵子と萩尾望都はデビュー直後には練馬区東大泉でシェアハウスをしていたし、同じものから影響を受けているので、中身も似るのは当たり前ですが、出だしなどゲイセックスシーンが無ければ竹宮恵子か萩尾望都か全く見分けがつかない。それくらいキャラの顔も動きもコマ割りもそっくり。

2) 差別化ポイントは暴力(性暴力含む)の嵐

 もうね、おじさんこの2割で充分、お腹いっぱいですってくらいひたすら暴力シーンが続きます。そのほとんどが性暴力シーン。ひでえ。そこまでする必要あるのかというくらい、なにかと主人公が男にレイプされる。どっちもよ、どっちも。ほぼ全エピソードでレイプシーンあるんじゃないか? やっぱああいうシーンが求められてたのでしょうかね当時、読者から。ラコンブラード学院、治安悪すぎですよ。まあ学院長がゲスキャラだしなあ。それにしたって、少年誌の不良マンガでもここまで治安悪い学校は珍しいだろってくらいに治安が悪い。しかもなんでこんなゲイばっかり出てくるのってくらい、ゲイ率が高い。統計的に考えておかしいよ。4人に1人くらいゲイなんじゃないのラコンブラード学院関係者。

 昔読んだ中島梓の『コミュニケーション不全症候群』で、少女の代わりに美少年が出てくるのは、読者と同じジェンダーだと読者が自分と比べてしまうからとありましたし、ジルベールは女性でも物語は成り立ちますけどもね。

全体として見ると、中盤ちょいと中だるみしたかなあって思いますね。どうせ喧嘩とレイプシーンのリピートが延々続くだけなんで、半分で良かった。

それから、最後の方で主人公二人が学校の仲間たちに後押しされて駆け落ちする下りは良いアイデアだったと思います。爽快感があった。あのままハッピーエンドで終わらせる手もあったけどなあ。

考証面では、19世紀なのに1930年代以降の写真技術や作風が出ているのはおかしいといえばおかしいのですが(史実では19世紀後半はピクトリアリズムと乾板の時代で、作中に出てくるような望遠撮影とかストレートフォトグラフィの写真集というものは無かった)、まあそれくらいですね、気になったのは。

ちょいと中盤クドすぎたのと、いくらなんでもレイプシーン多すぎるだろうとは思いましたが、いい作品だと思います。読んで損はない。