ごく短い期間、SF作家として大活躍された後に夭逝された方の小説を初めて読んでいる。
いかにも「あの時代」に書かれたものっぽい雰囲気と各種セットアップだなというのが第一印象だ。エヴァンゲリオン、攻殻機動隊アニメ、森博嗣。好きだったんだろうなあ。
ところで、全てが国家権力によって統制された社会というのを書く/描く人は多いけれど、
「どうやって憲法改正したんだろう?」
「ごく一部の女子高生だけが管理社会に疑問を感じているなんてことはあり得ないだろう? 法学者・社会学者・政治学者・文学者などの議論はいくらでもあるはず」
というようなことを考えてしまってのめり込めない。私は。
SFで「いや、あれは話を面白くするためにウソついてるんですよ」ってクリエイターが意識してやっていて、受け取る側も「面白くするためのウソは大歓迎ッス」ってスタンスだと、設定の穴なんて全く気にならないのだ。しかし、「思想書・哲学書をSF小説の形で書いた!」という顔つきで来られると、こちらも学術論文や学術書を読み込むスタンスで読むから、「おいおまえ無茶苦茶書いとるぞ」ってSNSに書きたくなっちゃう。残念な性分である。
彼が元ネタにしたベンジャミン・リベットも原書が出た時にすぐに取り寄せて読んだし、もともと聴覚障害者の社会学的研究をやっていたので、マーサズ・ヴィニヤード島の手話の理解がかなり(というと甘い表現で、実際には「完全に」)間違っているのも気になってしまう。
しかしこれはそれにしても設定に穴がありすぎではないのか?
「全ての成人が常時ネット接続で健康状態をモニタリングしている社会」
「ある日、突然、数千人が一斉に自殺した」
「このネットを介して自殺信号が送られた可能性が高い」
「そういう犯行声明も出た」
「1週間以内に他人を殺さない人には漏れなくリモート自殺信号を送るデスゲーム開幕宣言」
この時点で(というか自殺事件の直後に)政策的にネット常時接続を切るんじゃないか(電波の弱いとこに行ってネット接続が切れているシーンもあるわけだしさ)? で既に自殺コマンドを送られた人へのログ解析で対策ソフト作れるんじゃないか? なんか見落としあるかな? 何でそんな危ないものを繋ぎっぱなしのままでパニックSFが進行してるん? しかもラストシーンで人体オンライン化デバイスを通して人類補完計画発動して全人類が***になったって書いてあるけど、最初のシーンでそのデバイスは成人になってからインストールするって書いてあるじゃん。そのデバイスを住民が使っていない地域もあるって書いてあるじゃん。
なんなんだこれは? どこか大事な設定記述を読み落としたのだろうか?
2023/9/25 追記
前作の『虐殺器官』を読んでいないとわからない本ですよと言われました
なるほどです