仮面ライダービルド公式完全読本・書評

キャストとスタッフのロングインタビュー集です。
先に結論ですが、仮面ライダーのというより、超一流のモノづくりについての豊穣な資料集ですね。

ウェブサービスともハードウェアとも違う、正真正銘の一発勝負でリリースしたら修正も回収も効かない商品作りの裏側を膨大な取材で見せてくれている、凄い本でした。

一つ一つのシーンやデザインについて、キャストとスタッフが徹底的に考え抜き、理論化し、コミュニケーションし、作り込んでいることがわかります。このクラスのタイトルに呼ばれるプロは半端じゃない。ホントに半端じゃないですね。

役者さんたちも最初は顔で選ばれてこの世界に入っている人ばかりですが(新劇の養成学校や大学やタレント養成学校卒ではない、ルックスエリート系ばかり)、インタビューを読むとみなさん頭脳明晰、語彙は的確かつ多彩、人間性も深みがあり、この場に呼ばれているだけのことはあるわー、と舌を巻きました。

仮面ライダービルドという作品は、大森プロデューサーもこの本の中で語っていますが、主人公サイドの登場人物たちはみんな過酷そのものの運命に痛めつけられて、一人また一人と戦死していきます。

あれ、役者さんたちはどんな気分なのか私は知らなかったんですが、インタビューを読むと、キツいシーンは役者さんのメンタルもゴリゴリに削られるみたいで、それが典型的に表出しているのが武田航平さんとその部下たちが順に死んでゆくプロセス。武田航平さんはビルドの撮影が全て終わって放映も終わっている時点でも、目の前で最後の部下が死んだシーンの撮影を思い出すと声が震えてしまうと。

またその部下たちを演じた役者さんたちも、今度はラスボス戦直前に再構成された亡霊状態で最後に武田航平さんを死に追いやるというシーンがあるんですが、今度は部下を演じた吉村卓也さんや芹澤興人さんが物凄く精神的にキツかったと語っています。

そこまで役柄に入り込んで作られているのが、仮面ライダー。

武田航平さんは部下役の3人と何度となく飲みに行って、仮面ライダーとは何かというレベルから話し合って関係性を作り、しかも支払いは全て武田さんのオゴリだったとか。

また、仮面ライダーではライダーや怪人のコスチュームの中に入るスーツアクターというキャストが沢山居るんですが、この人たちの仕事のレベルも凄いんです。

自分の撮影が無いときでも、怪人やライダーの変身前の役者さんの撮影に張り付いて、ひとりひとりの細かい仕草や立ち居振舞いを観察して、特徴的なものを拾い上げて、変身前の役者さんと綿密に人物造形について話し合いながら、芝居を作っていくと。

全てがこのレベルの仕事。

そんな現場で1年間やれば、顔キャスで役者になったジュノンボーイたちも終わる頃には一人前のプロになりますわね。

平成仮面ライダースクールの凄みに震えっぱなしです。

自分の子育てが平成仮面ライダーの時代で良かった。