ローズマリー・サトクリフ『落日の剣』

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『落日の剣』(Sword at Sunset, 1963)

1959年に発表された『ともしびをかかげて』と連続したお話です。5世紀中頃。

前作ではケルト系のブリトン人の王として立ったアンブロシウスが侵入してくるサクソン人との決戦で何とかこれを撃退したところで終わっていましたが、本作の主人公は、その戦いで決定的な役割を果たした将軍アルトスです。

前回の決戦の後、アルトスは嫡子の居なかったアンブロシウスからブリテン伯爵の称号をもらい、いつか来るはずの次の決戦に備えてブリテン軍の中核となる重装騎兵の強化に奔走します。

彼の名前を英語風にすればArthur。すなわちこれはアーサー王の物語です。とはいえアーサー王伝説はあり得ない展開の連続なので、さすがにそちらは取り込まず、ブリテン人の王としてサクソン人とバドンで戦い、最後は反乱を起こした実姉との間の子メドラウト(モードレッド)を一騎打ちで倒して自分も死ぬというところを取り入れて、もしもアーサー王というものが本当に居たなら、こういう辛い人生だったろうなあという物語にしています。

前作の主人公アクイラ(ローマ正規軍の将校からサクソン人の奴隷を経てアンブロシウスの将軍となった)、その息子フラビアンもアルトスの騎士団の幹部として登場しますが、アクイラはバドンの戦いで戦死。フラビアンはメドラウトとの決戦で戦死。主要キャラが終盤でどんどん死んでいく、田中芳樹展開ですね。ただ、あのイルカの指輪はアクイラからフラビアン、更にその長男へと継承されています。この指輪はこの2年前に書かれた『夜明けの風』で主人公オウェイン(アクイラ一族の末裔)とその恋人を繋ぐアイテムとしても登場していますから、ちゃんと書いておかないと、ということですね。

バドンの戦いの勝利の日、アルトスは将兵たちに推戴されてブリテン王となるのですが、このシーンの舞台として使われているのが「アフィントンの白馬」と呼ばれる、古代ケルト人の残した地上絵です。サトクリフは後に、この地上絵が描かれた経緯を(フィクションですが)『ケルトの白馬』(Sun Horse, Moon Horse, 1977)という中編で描いています。

サトクリフの戦闘描写は、この手の歴史作家の中では群を抜いてリアルなのは以前から指摘しているところですが、本作ではイギリス陸軍の少佐が戦闘場面の監修をしており、そちらの趣味がある人にも実はお勧めです。