サトクリフ『銀の枝』も読んだ

ローズマリー・サトクリフを集中的に読むキャンペーン。

いよいよゴールが見えてきました。

今回ご紹介するのは、イルカの紋章を受け継ぐアクイラ一族の物語の、時代が古い方から二つ目。

『銀の枝』(The Silver Branch, 1957)

初代マーカス・フラビウスがブリテン島でローマ第9軍団の象徴である鷲の神像を奪還する冒険を敢行したのが西暦120年代後半(125-129年にかけて)でしたが、今作はその160年後。西暦293年から296年にかけてブリタンニアで起こった内戦を舞台にしています。

アクイラ家の二人の子孫、フラビウスとジュスティンが僭主カロウシウスの軍団の将校として出会う場面から始まり、二人はやがてカロウシウスを暗殺して僭主の座を奪ったアレクトスへの抵抗組織のリーダーとなり、ローマ西帝コンスタンティウス・クロルスの派遣軍に参加してアレクトスを倒すまでが描かれます。

初代マーカス・フラビウスが屋敷に隠した第9軍団の鷲の神像を二人が発見し、抵抗組織の象徴として戦場に赴くシーンがクライマックスとなります。

初代があくまでもローマ市民として生きたのに対し、今作はアクイラ家の子孫がいかにしてブリテン島の守護者となっていくのかがテーマです。二人はカロウシウスから、ローマ帝国が滅びた後にいかにブリテン島にローマ文明を残していくのかという宿題を出されます。この宿題を書き付けた文書が二人のところに届けられた際に、文書が偽装されていたのが、銀でできた木の枝の模型なのですが、これはケルト神話において異世界への通行証を意味するものなのです。

8世紀にアイルランドで書かれたと考えられている「ブランの航海記」と呼ばれる物語の主人公ブランは、ある時、銀で出来た枝を手に入れます。突然現れた女性は、その枝がアイルランドの異界にあるリンゴの木から取られたものであると告げます。ブランは仲間を集めて、異界にあるという女だけの国を目指して航海に出ます。最終的にブランは女だけの国にたどり着いて1年間を楽しく過ごすのですが、アイルランドに戻ってみたら長い年月が過ぎていた、というお話。

フラビウスとジュスティンは「ブリテン島で最上のリンゴの木」が生えた家で抵抗組織に参加し、ガリア(ヨーロッパ大陸)への脱出ではなくブリテン島に留まることを選び、「銀の枝」によってブリテン島の守護者の仕事を託されます。すなわち(当時は)ケルト人の島であったブリテン島に、ケルトの神話のアイテムによって結び付けられていくのです。一方、二人をローマに結びつけていたアイテムである鷲の神像は、クライマックスの戦闘で炎の中に失われます。

カロウシウスが暗殺される経緯は史実とは異なりますが、歴史小説ですからそれは問題無いでしょう。

なお、ジュスティンJustinは軍団付きの外科医という立場ですが、10世紀を舞台にした『ヴァイキングの誓い』でイングランドからコンスタンチノープルへと旅をして外科医になった主人公の名前はジェスティンJestynでした。