ローズマリー・サトクリフ『ヴァイキングの誓い』

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『ヴァイキングの誓い』(2002年ほるぷ出版)

原題は”Blood Feud”(血の恨み)です。1976年刊行。

時代は9世紀後半で、サトクリフの本では珍しく、舞台はブリテン島からどんどん離れて行く仕立てです。

主人公ジュスティンはサクソン人とブリトン人の間に生まれた少年。早くに両親を亡くし、東へ東へと旅を続けます。海辺の村で牛飼いの見習いをしている時にヴァイキングに襲われて奴隷として連れ去られ、ダブリンの奴隷市場で売られ、更に偶然が重なってヴァイキングの一員となり、ユトランド半島からキエフ大公国、更に東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルへとたどり着き、そこで家庭を持つ。

若い少年が異民族の奴隷となるプロットは先行する時代を扱った『ともしびをかかげて』『夜明けの風』 と共通ですし、異民族同士がどうにかこうにか戦いと戦いの合間の休戦期間を繰り返して融和していくという大きな筋立ても同じ。

ただ、本作では彼女のもう一つのテーマである、ノルマンコンケスト以前のブリテン島の歴史、ではなく、ヴァイキングとはいかなる人々だったかというところに焦点が当てられています。

歴史学や考古学ではもはや、北欧から金髪碧眼の戦士たちがガレー船で殴り込んで来て略奪を繰り返す、みたいなヴァイキング像は終わっており、ヴァイキングとは行く先々で現地住民の一部をメンバーに加えながら、時には戦闘を、時には交易をして、水上交通によって地中海世界を含むヨーロッパ各地へと入植して行った人々とされています。

もはや単一民族でさえない。どちらかというとビジネスモデルですね。商社とか船社とかの。そのビジネスモデルで運営される組織が数多く存在していて、そのどこかにメンバーシップとして加われば、彼・彼女はもうヴァイキング。

主人公ジュスティンもヴァイキングの一員として東ローマ帝国の傭兵となり、最後は東ローマの市民と結婚して東ローマに根を下ろす。次の代では市民になるわけですね彼の子供たちは。

そうしたヴァイキングのありようを、いつものプロットの転用で見事に描ききる。大したものです。サトクリフ。