サトクリフ『太陽の戦士』『運命の騎士』

まだ続いていたローズマリ・サトクリフを集中して読むキャンペーン

今日は2冊まとめてご紹介

Warrior Scarlet (1958) 邦題『太陽の戦士』
Knight’s Fee (1960) 邦題『運命の騎士』

いままで紹介してきたのは、イタリアからイングランドに移住して土着化したローマ人のアクイラ一族の物語でしたが、この2作はそれとは別で、Warrior Scarletは紀元前10世紀ごろの青銅器時代、ビーカー文化の人々のお話です。Knight’sFeeはそこから2000年ほど飛んで、12世紀初頭、ノルマン朝のウィリアム2世とヘンリー1世の時代のお話。

この2冊は書かれた時期も連続していますが、内容も対になっています。

Warrior Scarletの主人公ドレムはビーカー文化の支配者層の少年ですが、右手が使えない身体障害者。そのため、戦士となるための通過儀礼をコンプリート出来るかどうかが物語の焦点です。

Knight’s Feeの主人公ランダルはブリトン人とサクソン人の間に生まれた孤児です。一番古くからイングランドにいた(ドレムの時代からの土着の)民がブリトン人。それを征服したのがサクソン人(アクイラ家の戦いはサクソン人との戦いでした)。で、この時代はノルマンディーから来たノルマン人が支配者です。孤児のランダルは番犬の世話係をしていましたが、ふとしたきっかけでノルマン人騎士に拾われ、その従者となります。
Warrior Scarletの主人公ドレムは族長の息子、ヴォートリックスと無二の親友となり、ともに通過儀礼に挑みますが、ドレムはその第一段階である狼狩りで失敗。通常ならその場で死ぬところをヴォートリックスが助けてしまい、恥さらしとして部族を抜け、先住民の村に移って羊飼いとなります。

Knight’s Feeの主人公ランダルは主人の跡継ぎである少年ベービスと無二の親友となり、ベービスが騎士となる通過儀礼を無事見届けます。

Warrior Scarletの主人公ドレムはある冬、先住民の羊飼いを助けるために単身で狼に挑み、これを殺します。この狼は以前にドレムが対決して負けた個体であることが確認され、ドレムは部族への復帰を許されて戦士となります。

Knight’s Feeの主人公ランダルはベービスの従者として出征し、ノルマンディー公ロベールとの戦いに臨みますが、この戦いでベービスは一族の宿敵と戦い重傷を負います。ランダルはこの宿敵を打ち取りますが、ベービスはランダルに騎士の身分と自分の武装を授けて息絶えます。ランダルは騎士になどなりたくなかったのですが、ベービスの遺志を継ぐために騎士となる道を受け入れます。

このように並べてみると、この2作のプロットはほぼ同じです。
ハンデキャップのある少年が親友と出会い、別れ、最後は戦士として独り立ちする。
しかしそのハンデキャップの在り処はWarriorScarletにおいては身体障害。Knight’sFeeにおいては出身階層です。身体障害を乗り越えて一人前の戦士となれるのか。出身階層のハンデを越えて騎士になるのか。ドレムは戦士になることを望み、ランダルは騎士になることを望まなかったのも見事な対照図形ですね。

実は物語の中盤、ランダルは村の羊飼いから「左利きか、右手が不自由だった男が使っていたはずの石の武器」を見せられます。村の丘の上から掘り出されたものだと言います。それを手にしたランダルは、狼から羊を守るために戦う古代の戦士の幻を見ます。

実はランダルがベービスから受け継いだ村は、かつてドレムが住んでいた村だったのでした。

Warrior Scarletの主人公ドレムは土着民の血を引く娘を娶り、物語は終わります。
Knight’s Feeの主人公ランダルは支配者であるノルマン人の娘への求婚を決意し、物語は終わります。