恋愛の概念が無い世界で進行する大恋愛を小説にする挑戦

現在、エブリスタで毎日更新中の『西の天蓋』、最初はそういうつもりではなかったんですが、森きいこ先生のアドバイスで「恋愛」要素を導入して書き進めています。

恋愛を書くこと自体は難しくないです。

教え子たちからの生々しい恋愛相談、それどころか離婚の相談まで、今もしょっちゅう来ますからね。俺はウェブ告解室かウェブ和尚さんかというくらいに。

やろうと思えば、ハリウッド風の大味で化学調味料フルブーストな恋愛も、ラノベ風のテンプレ恋愛も、書けます。

書いていても、「あーここでハリウッド映画ならキスしてるんだろうなあ。あいつらキスとダクトテープでこの世の全てが解決すると思ってるからなあ」とか「ラノベ風の台詞回しなら全部テンプレだから簡単にここ書けるよなあ」とか傲岸不遜なことを(以下自粛)

で、そういうものをなぞるのは全然楽しくないので(私が、だ)、今回は以下のような縛りを設けての挑戦です。

  1. ヒーローもヒロインも恋愛という概念を知らない
  2. 物語世界では結婚は財産継承を唯一の目的として行われるもので、恋愛結婚という概念は無い
  3. ヒーローとヒロインは出会った段階で、「お前たちが結婚するならこの家の家財を相続させる」と告知されている
  4. ヒーローもヒロインも、この相手と結婚するのは構わないと最初から思っている

この状況を作るために、でもないですが、ヒーローは今風に言えばエリートサラリーマンで16歳の時から仕事一筋の25歳。ヒロインは山奥の集落生まれで文字すら読めず、子供の頃から自分は家を継ぐために然るべき男をどこかで捕獲するものだと考えて育ったという設定になっています。

もちろんこの社会でも恋愛をテーマにした文芸は存在するのですが、それは以下のようなもので、まだ「個人の内面」というものは文芸のテーマとして成立していない段階です。

  • 上流階級の恋愛(結婚とは無関係な)をテーマとした長編詩。貴族か大金持ちしか読む機会が無く、庶民は存在すら知らない。
  • 痴話喧嘩をネタにしたゴシップ記事。いわゆるかわら版として街角で売られて、庶民が読む。スポーツ新聞の芸能欄や三面記事だと思えば当たり。
  • 大都市の劇場で上演される演劇。恋愛をテーマにはしているが、物語の核となるのは「許されない恋(身分違い・不倫・ロミオとジュリエット環境)」がどんな顛末を辿るのかという部分で、登場人物は全てテンプレ。王子と王女が出てくれば、この二人は恋に落ちるんだなということがお約束として観客に了解されている。つまり恋愛をしている個人の内面描写は存在せず、許されない恋をしている二人の周囲の状況がどう変化していって、最後に恋は許されるのか許されないのかがテーマ。
  • 地方都市を巡回する大衆演劇。中身は大都市で上演されるもののディフュージョン。

「個人の内面」とか「純愛」という概念が発明されていない社会で、「許されない恋」どころか「是非結婚しろ」といきなり言われた地点からスタートして、「恋愛」という概念をポピュラー文化から学ぶ機会がゼロだった二人に、恋愛は可能なのか。

二人とも恋愛文化のボキャブラリーがゼロなので、会話だけ見ていると全く恋愛に見えないのですが、実は本人たちも知らないけれど、大恋愛をしている。

そんな感じで進んでおります。斜め上の発言の応酬で、書いていても非常に面白いです。