無理ゲーでしょう(笑)

文部科学省が私大への補助金配分で新しい基準を提示するそうです。

「文部科学省は、私立大学への補助金を、教育の質を向上させる改革を学校全体で進める大学に重点配分する方針を決めた。

 来年度から実施する。グローバル化の進展で大学の教育力アップが迫られる中、全大学の8割近くを占める私大に改革を求める。

 補助金の配分は「教育の質向上」「地域再生の核となる大学作り」「産業界・国内外の大学と連携した教育研究」の三つを評価の柱にして、人件費、施設費、設備費を一体的に支援する新たな仕組みで実施する。

 具体的には、〈1〉カリキュラムや教員の指導力改革、図書館を24時間開館するなど学生が勉強に専念できる環境整備〈2〉地域の課題解決のための教育プログラム〈3〉問題解決型授業など世界で活躍する人材育成、企業との教育プログラムの共同策定――などを支援する。」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20120904-OYT8T01041.htm

 「地域の課題解決」「問題解決型授業」「企業との教育プログラムの共同策定」。簡単に書いてますが、書類上ではなく本当にこれがやれる人材って今の日本の大学教員で1割いないと思います。例えば地域の課題解決。いざ講義としてそれをやろうとすると、難しさは教室でテキスト輪読させている講義の比ではないですよ。フィールドエントリー、調査、課題発見、ソリューション検討、実施、報告書作成と工程数は多いです。これを一通りこなすだけでも大忙し。

 気をつけなければいけないのは、イベントをやるとか、学生のマンパワーを無料の労働力として集中投入して何かやるとかの、課題解決にならないことをやって課題解決しましたとなってしまう展開です。例えば街中緑化NPOの活動にボランティアとして学生を参加させるとか、二次林(いわゆる「里山」)再生NPOの活動にボランティアとして学生を参加させるとか。こういうのはアタマではなくカラダしか使っていないので、大学の講義としてはレベルが低いでしょう。 また「地域の中の誰がやるのか」「継続性はあるのか」の2点で考えると、イベントやボランティアでは完璧に落第です。

 それに、社会経験も実務経験も極めて乏しい学生たちがそうそう簡単に地域の課題解決のソリューションを書けるもんじゃないんですよ。よしんば学生達が何か考えたとしても、それを教員一人で評価するのは無理。だから私は様々な分野の実務家の方々にお願いしてソリューションの出来をチェックしてもらっています。実務家チェックを経てなにがしか可能性があると判断された案をベースに、動員可能な人材と資金そして残り時間で実現可能なソリューションを考えて体制を作って実行。息つく暇もない。相応のマネージメント能力(平均して言うと日本の大学教員はこの能力がおそろしく低い)、多様な実務家とのネットワークと信頼関係、そして体力と情熱が無いと出来ませんよ。

 あと、地域に入っての課題解決型講義についてもう一つ難しいのは、地域の裏事情との兼ね合いをどうするか。自治体と組んでイベントとかボラとかの「お客様」型フィールドワークなら気にする必要は無いですけども、それではよそ行きの顔しか見えてこない。少なくとも社会学の勉強としてはレベルが低い。 それで公共セクターではなく非営利や営利セクターからアプローチしていくと、地域内の対立構造の寝た子を起こしかけたとか、環境NPO風で実は共産党や新左翼のダミー組織だったとか、麻薬やってる人だったとか。去年私のとこもマリファナ関係にニアミスしてて後から冷や汗でした。 左翼系組織のダミー団体かどうか、わかる人には気配でわかるもんなんですけどね。私はその辺を識別するノウハウは持ってます。ここには書きませんが。地域にはそういうトラップもたまにあるんで、やはり指導側にも相応の知識経験覚悟は必要ですよ。

 そんなわけで、道は険しいだろうなあとしみじみ思った私でした。