「実弾が飛び交う中で結果出せる人」「でも下品な人はだめ」

 先週、日本最大級の総合商社の系列子会社の役員さん、そして中堅社員さんと話をする機会がありました。打ち合わせの目的は、立教大学社会学部現代文化学科で私が教えた学生たちを対象とした、インターンシッププログラムのβ版立ち上げの検討。

 何故そういう話になったのか。その会社の新卒採用は人事部が一から十まで全部仕切っておられるのですが、そうすると人事部以外の社員さんが大学や大学生とコミュニケーション出来る場が全く無くなってしまうのですね。B to Bの会社だし。そこで、その会社がいつも新卒採用で採っているクラスの大学の学生を現場に入れて、お互いの空気感を掴めるようなインターンシッププログラムを立ち上げたいとなった。しかしそうは言ってもどこからどう手を付けて良いのか皆目わからないので、その辺のノウハウやチャンネルを持っている私に声がかかったというわけです。

 そこで色々話を聞く中で印象に残ったフレーズがこれ。

「実弾が飛び交う中で結果出せる人」(中堅社員氏)
「でも下品な人はだめ」(役員氏)

 順に解説しましょうか。まず中堅社員氏の本音。新卒採用というのは、実は会社側にとっても結構リスキーな冒険という側面があるのだそうです。つまり、一度正社員で採用したら、その人が定年になるまでには2億とか3億の給料を毎月支払うことになる。これは見方を変えれば分割払い総額2億の設備投資をするようなもので、スカを引くのはまことに痛いのだと。

 では、どんなタイプの人が現場では求められているのか。ダイナミックに変化し続ける状況の中で的確に判断し、結果を出せる人。

「実際の仕事ってのは、シミュレーションや大学でのお勉強と違って、常に弾が飛び交ってる所でやるわけよ(つまり当たれば傷が出来るし、当たり所が悪いと致命傷にもなる)。そんな中で結果を出せる人じゃないとね。クリーンな空間で綺麗な答案書けるだけじゃ駄目なの。」

 そこで役員さんの補足説明が入ります。

「でも、下品な人じゃ困るんですよ。今、我々のような会社ではコンプライアンスということが非常に厳しく言われているんです。うちの会社で悪いことやった奴が出れば、世間は『○○商事が不祥事を起こした』と受け止めてしまいますからね。下品な人間性の人は駄目です。上品じゃないと。」

 そうなんです。ランボーとかターミネーターみたいな奴なら良いってもんじゃなくて、法律は遵守した上で、サバイバビリティのある人材でないとあかんのが、このクラスの会社なんです。

 では、そういう人材育成はいつ、誰が行うべきなのでしょうか? これは難しい問題です。学問とは別の部分の話ですからね。そういうのは大学の仕事じゃないというのは正論です。

 逆に私はといえば、これまで一貫して「そういう人材」を育てることだけ考えてやってきました。だから合宿なんかは敢えてギリギリまで傍観して、幹事が半泣きになってもうどうしたら良いのかわかんないという状態になるまで手を出さなかったし、後期も次々に「この日までにこういう結果出してね。やり方は自分たちで考えてね」という課題を与えました。そして、伝統も名声もある大学の講義ですから、学生たちにはコンプライアンスの部分も徹底して管理させた。

 日本の大学のゼミのスタンダードとも言えるテキスト輪読なんて、この4年間でただの1度もやったことありません。テキスト熟読は個人が勝手にやるべきもので(どっちみち演習では本当に深いところまで読み込む時間は無い)、それよりも、乱戦状態での度胸を付けさせたりグループワークでのコミュニケーションの技法を磨かせたりする方が大事だと思います。テキスト熟読は一人で自宅でできますが、乱戦状態を作るのもグループワークをするのも、人が集まる場じゃないと出来ないんですよ? ね。

 結果。まだまだ修行は足りませんけれども、最低限インターンシップに出して恥ずかしくないレベルのコミュニケーション能力やマナー、グループワーク能力、乱戦状況下でのサバイバビリティなどは与えられたと思っています。そうして実業の世界と大学を行き来しながら、本当に社会と繋がった社会学に取り組んでいって欲しいというのが私の考えなのです。