まだそんなネタを

 ある学生がこんな話をしていました。

「なんで他人を殺してはいけないのか、ってテーマでレポート書かなきゃいけないんです・・・・」

 宗教社会学のレポートらしいですがね。なんか懐かしいネタだなあと思いつつ、ともかく自力で書き上げろとニヤニヤ笑っておいたのが半月くらい前か。

 先週久しぶりに会ったので聞いてみました。

「おい、例のレポート、ちゃんと書けたか? 人を殺したらどうのってやつ」
「何とか頑張って書きました。結論は出なかったんですが。」
「なんだよ、こんな簡単なネタも結論出せないのか(笑)」
「え、先生だったらどうやって書くんですか?」

 私の説明はこうです。

 もしも他人を殺害しても一切罰せられない状態となると、全ての人間が「いきなり殺されないため」に大変な労力を割くようになります。時間に換算すると、24時間のうち例えば1時間くらいはそういうことに食われるようになるかもしれない。仮に1人1日1時間で見積もると、年間で365時間だから、1日あたりの睡眠時間8時間で考えるとおよそ起きて活動している時間だけで見て23日間。

 年間で23日間もそんな下らないことに使うくらいだったら「ひとを殺してはいけないことにしよう」というルールを決めておいた方が遙かに経済的でしょ? これが無駄なセキュリティソフトを常時走らせる為に食われるマシンパワーと考えたらどうでしょう? バカバカしいと思うよね? その分の電力は何も生産しないまま消えていくんだから。

 経済学じゃなくて物理学で考えても同じだよ。熱力学の第2法則ってのがある。コップ1杯250mlの水が50度であるとき、その水がもっている熱量は500mlの25度の熱量と等しい。でも500mlの水が持つ熱量を250mlの水に移動させて50度にするには、必ず余計なエネルギーを食う。そのエネルギーも熱の集中度/拡散度で表現出来るから、結局のところある場所に熱を集中させる為には、別のところにある熱を拡散させなければならない。そして、宇宙全体の熱の密度は常に低下する方向に変化し続けている。これをエントロピーの増大と呼ぶ。

 要するに、何も生産しないことにエネルギーを使うってのは、宇宙を無駄遣いするってことさ。

 え? 宇宙も無駄遣いして何が悪いんだって? それはもう理屈じゃないでしょ。理屈で言ったらここまでで完全に説明されてるわけで、それでまだそんな質問をするってことは、理解する気が無いのか理解する能力が無いのか構って欲しいだけなのか、あるいはそれら全部か。いずれにしても大学で取り扱うべき範囲を越えているよね。大学は知を扱うところなので、知性が足りていない/構って欲しい感情を持てあましているというケースは取り扱っておりません。

 ・・・と、俺なら書くね。どうよ?

「そんなこと書いたら、単位貰えないです(笑)」
「え~~~~~~なんで~?」
「宗教社会学じゃなくなってます」
「何言ってるんだよ、科学も宗教も世界の信憑構造の説明という点では同じもんだ。それこそバーガーとルックマンの宗教社会学が言ってることだろ。習わなかったのか?」
「(涙)」