15分間のやさしい使い方

 かつてイタリア中部、ウンブリアのアッシジの町に、聖フランチェスコという方がおりました。お金持ちの家に生まれ、若い頃ははっきり言って典型的な金持ちのドラ息子だったのですが、20歳を過ぎた頃に大病を患って信仰の道に目覚め、清貧で知られたフランチェスコ修道会を創立した方です。動物にも説法をしたとか、キリストと同じ両手両足脇腹に傷があったとか、色々と伝説がある、カトリックでも超A級のメジャーな聖人ですね。文句無しに偉い人。

404 Not Found

 一方、毎日こういうウェブログで環境がどうの、教育がどうのと偉そうな事を書いております私ですが、実のところ本人は至って性格の悪いイヤな奴でして、嫌いな奴が不幸に見舞われれば快哉を叫びますし、出来れば贅沢だってしたい。アーセナルやレアル・マドリーや読売ジャイアンツが負ければその翌日は何となく気分が良いですし、1泊15万円もするような超高級リゾートに(他人のカネで)1週間ほど滞在してみたい。本当は国産の中古車じゃなくってルノーのメガーヌに乗りたい。

 ・・・・煩悩と物欲の塊です。何が南の島を思えだこの野郎。テメエの舌は何枚あると言われてもしょうがない。申し訳ない。

 ですがこういう男にも、良心のかけらみたいなものは残っていまして、それが覚醒して活動しているのが、だいたい1日のうちで15分とか30分なんですね。だからその隙にこのウェブログを書く。

 世の中にはアッシジの聖フランチェスコのように、突然回心して信仰の道に入ってしまう聖人もおられますが、私にはそこまで出来ない。たぶん世の中の殆どの人は聖フランチェスコになれない。世の中が聖フランチェスコみたいなひとばっかりだったら、犯罪も起こらないだろうし環境問題だってすぐさま解決するんでしょうが、それは有り得ない状況です。みんなで聖フランチェスコになるというような解決法は、社会問題や環境問題に使えない。だとしたら、一体どうすれば良いのか? 

 こういう時は目標を少し下げてみるに限ります。一生を信仰と利他に捧げる聖人にはなれなくても、1日のうち15分くらいは「いいひと」になれるんじゃないでしょうかね、私たちも。それくらいだったら我慢の範囲内でしょう?

 例えば、交差点や合流で他車に譲ってみる。待ち合わせで待たされても、「いいひと」になって相手を赦してみる。ゴミを拾ってゴミ箱に入れてみる。いや、そういう目に見える行動じゃなくても、1日のうち15分間だけは優しい気持ちで周囲に接してみる。

 それが一体何になるのかって? 世の中というのは不思議なもんでして、ほんのちょっとアクセルをゆるめるだけでも、それが合わさると、全体の様子はガラリと変わるもんなんですよ。電車だってそうでしょう。扉が開いたら我先に殺到するよりも、列を作って整然と乗り込んだ方がスムーズで時間がかからない。仕事だって、完璧に近づけば近づくほど、あとちょっとのクオリティの向上が大仕事になる。長さ1m誤差プラスマイナス5cmの棒を切り出すんだったら小学生でも出来るけど、誤差プラスマイナス5mmは本職の大工さんじゃないと厳しい。誤差プラスマイナス1mmは神の領域ですね。小学生はそれなりの修行をすれば大工になれますが、大工が神になるには、小学生が大工になる為の修行の10倍くらい修行しないといけない。いや、もしかしたらもっとかも。さらにプラスマイナス1mmを0.9mmに詰めるこの0.1mmは厳しいでしょう。

 要するに、ほどほどの所を越えて完璧を要求するというのは、バカみたいにコストがかかるんです。時間を食う。資源も食う。

 だったら、ほどほどで済む所は、ほどほどの完成度で満足しておく。その為に「優しい気持ちの15分間」を使うのが良い。1日15分間。みんなでそれをやれば、それだけでかなり世の中住みやすくなると思いませんか? 心の中に聖フランチェスコを住まわせておく。エディ・アイカウでも良いですよ。そして1日に15分間でいいから、「もしもエディだったらこんなときどうするだろう?」と自分に問いかける時間帯を作る。そうやって毎日を過ごすんです。

 そうそう、先ほど私は「それくらいだったら我慢の範囲内」とか書いたんですが、実際のところ、1日15分間限定「いいひと」は、我慢とかそういうものの逆の経験になります。自分がエディ・アイカウや聖フランチェスコのような偉大な人物になった気がする。本当は全然そんな偉い人になったわけじゃないんですけど、気分だけはそんな感じ。これはストレス解消になります。本当です。

 世の中には、とにかく偉くなりたい人、自分を認めて欲しくて背中の毛を逆立てて周囲を威嚇している人がいます。他人より少しでも上に行きたい。上に行って良い気分を味わいたい。ご苦労さんな事です。もっとずっと楽な方法があるのにね。自分が偉くなった気分を味わいたいのなら、周囲に優しい気持ちで接してみる。これが一番手っ取り早いです。

 いかがですか。みなさまも、ちょっと試してみませんか?