原田裕規が篠田節子の小説『青の純度』の参考文献一覧に自分の本が無かったことについて不満を各所で発信している件について、一点、事実関係で指摘しておきたいことがあったので記しておく。
書評で指摘されていた類似点に加え、『青の純度』において画家ヴァレーズの作品が「インテリア絵画」と表現されていることについても、自身が「ラッセン本」で意識的に使い始めた「インテリア・アート」という言葉を参照にしているのではないかと原田は言う。「ラッセンやリン・ネルソンなどの海洋画を指す『マリンアート』という言葉は以前から使われていましたが、ラッセンやヒロ・ヤマガタなど一般層への販売に重きを置いた作品群を指す言葉がなかったため、『ラッセン展』(2012)や『ラッセンとは何だったのか?』(2013)以降、『インテリア・アート』という言葉を意識的に使い始めました。この言葉は美術の世界では一般的ではなく、定着させる必要があったため、『美術手帖』のオンライン辞書に「インテリア・アート」という項目の作成を提案し、執筆しました。こうした経緯を鑑みても、小説で偶然にも『インテリア絵画』という言葉が出てきたとは考えにくいと思っています」(原田)。
出典 https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/yuki-harada-Lassen-202510
これは原田裕規のリサーチ不足で、細野不二彦『ギャラリーフェイク』の「質屋とマティス」の中で「1、2年前からカシニョールやヤマガタなどの、いわゆるインテリア絵画が、質屋に持ち込まれるケースが急増している」というセリフがある。

その二つ後のコマでは明らかにラッセンを念頭に置いた絵が描かれている。単行本は3巻所収。奥付は1994年4月1日初版1刷発行。添付した画像は50-51ページ。
むしろラッセンをリサーチした本を書いた原田やTokyo Art Beatの編集者がギャラリーフェイクのこのエピソードを知らなかったことが興味深い。
以下は一般論だが、小説は研究論文ではないし直接の引用があるのでなければ出典を示す義務は日本の法律にはない。自分は論文も小説も書く人間だが、小説にいちいち参考文献をリストアップするのも悪くはないがそれを義務や「マナー」みたいに考え出すと、それはそれでやり過ぎだと思う。小説は論文ではないのだ。
原田が篠田の小説を著作権法違反と考えるなら訴状を送れば良い。たとえば酷似した文章があちこちにあるというのであれば、それは盗用ということになるだろう。
いずれにせよ、こうしたものは最終的には裁判所が判断することだ。それが法治国家であり罪刑法定主義である。