不思議な現代アート公募賞

ウェブサイトの各部を拝見する限りこれはどう考えても日本国内の美大生芸大生あるいはウブな若者を養分として摂取するビジネスモデルであろうというギャラリーについて感心したこととして、選評すら出さないようなナイスな人も含めて東京の有名アートスクールの専任教員たちを審査員としてアサインして山ほど応募者を集め(もちろん審査料はきっちり取る)、大賞は出さないけれど入選と称したfinalistをいっぱい並べてギチギチに詰め込んだ受賞者展を開催するなど、本当に各部が日本の現在の現代アートの、外国で言うemerging artistsをあしらうデザインとして巧緻を極めておられる。

素晴らしい。

(アートスクールとは美大受験予備校のことではない。美術大学・芸術大学のことである。念のため。あとちっこいギャラリーの公募賞のfinalistは普通はCVには恥ずかしいから書かない人が多いようだ)

だが、そもそも東京藝大の学生や卒業生が大挙応募するような公募展の審査員に東京藝大の教員たちが並んでいるというのは、審査の公平性になかなかご機嫌な疑問符がつけられかねない建付けではなかろうか。つまり、所属校・出身校の教官(国立大学法人の先生は教官と呼ぶのだよ慣習的に)が審査員としてずらり並んでいる公募賞で何かの名誉を得たとして、周囲はそれをフェアな勝負の結果と捉えてくれるか。

もちろん違法ではないからやるのは自由だし応募するのも自由だが。

ただ私の記憶を漁ってみても、せいぜい30平米程度でレンタルが主力の(自前の契約アーティストを中心としたexhibitionがメインではない)商業ギャラリーの公募展にアートスクールの専任教員・教官が何人も並んでいるという建付けは、日本以外では「あったっけそんなの?」という不思議な光景だ。そのレベルの公募であればギャラリーオーナー(MFAを持っているギャラリーオーナーはざらだ)が選んでしまうか、ゲストでキュレーターを一人呼んでその人に選ばせるか。

ダメとは言っていない。単に「面白い国だなあ日本は」と思って見ている。

それと、大賞のCASH PRIZEが100万円と謳っておいて受賞者無しでしたというのは、審査料を取る公募展をやっているギャラリーとしたら実に美味しいオチではなかろうか。いくら要項に「受賞者は無しということもあります」と書いてあるとはいえ、賞金を払わないで済むわけだから。私だったらそういうことをやっているギャラリーの公募展なんか出すのは止めとけとアドバイスする。理由。ビジネスとして見た時に取引先として与信しづらいから。お互いに信義なんか無い、食うか食われるかだぜっていって参加する手ももちろんありですけれども。

ちなみにCASH PRIZEが100万円ってのは町のギャラリーがやる公募展としては世界的に見てもかなりの高額である。

ただ、CASH PRIZEを売りにしているOPEN CALLは総じて「現代アートのキャリア構築」という視点ではそこまでバリューは無い。良いキャリア構築が出来ている(順調に大きな美術館でのGroup ExhibitionやSolo Exhibition、有力レジデンシー採択などに進んでいる)人の履歴書にはこの手のものはあったとしても初期だけだ。