現代アーティストに求められる文書作成能力(かなり高い)

北米で出ている現代アート公募の要項に「指定の形式を遵守していないものは審査対象にならない」と書かれているのを見かけた。

こういう注意書きは欧米の好条件の公募では珍しくない(日本の公募は見ていないので知らない)。しかし、結構な分量がある応募要項を熟読して指定された通りに応募書類を作成することが出来る人間というのは、自称他称の「現代アーティスト」が10人いたらたぶん1人か2人くらいの割合なんだと思う。

私は大学を出てからこれまで1000人単位で日本人の採用審査・面接をしてきたけれど、自国語でもない英語で欧米のまともな現代アート公募の書類を形式審査で落とされないレベルで作成出来るような人材はSSR級だったと思う。

立教大学の私の指導学生でもそれが教師の指導無しで一発で出来るのは1割か2割だった。

公募を出す側は修士や博士を持っているから、これくらい誰でも出来るだろうと思ってしまうのだろうが、実際にはそこが最も強烈なフィルターになっていて、特に大学進学が非常に難しいようなグローバルサウスの若者たちのほとんどはここで振り落とされるだろう。

毎週のように書式指定のあるレポートを書かされて「なんですかこれは? 貴殿は指定書式すら守れないのですか再提出だ。いやなら留年だ」と締め上げられる数年間を経験しないと、ああいうところで戦えるスキルは身につかない。

そしてそれはおそらく、日本の美大生にとっても他人事ではないのだろう。

ユーフォニアムの滝先生みたいに、自分も立教では厳しすぎたのかとたまに思うことがあるが、この種の戦場で戦える力を身に着けてもらうためには必要なことだったのだろうと感じた。