なんかスレッズでバズったのでこちらに置いときますね。
アーティストステートメントを書く前に先行するライバルのステートメントをいっぱい読もう
アーティストステートメントをどう書くかについて思うことなんですが、初手として私がおすすめするのは欧米の難関公募を幾つも突破している人のステートメントを10本くらい丁寧に読んでみることです(日本人以外のを特に)。
例えば現在オランダのライクスアカデミーで3年間の滞在研修中の尾崎藍さん(東京造形大卒)のステートメントはこちら(リンク先)。シンプルで明快。
少なくともこれだけ憶えておいて欲しいのは
「アーティストステートメントに美術史への言及は不要」
ということ。
こちらもライクスアカデミーのレジデントのステートメントですが美術史への言及なんか無いですね。それでライクスアカデミーの公募(最難関公募の一つ)通るんだから、シンプルに書けば良いんです。
難関公募というのはアーティスト・イン・レジデンスならGasworks, Delfina, NARS foundation, Akademie Schloss Solitude, Headlands, Yaddoあたり。フェローシップだったらRijksakademie, Arts at CERN, イェール大学やコロンビア大学、スタンフォード大学あたりの長期フェローシップですねパッと思いつくのは。そういうところで(自国で助成金を取っていく派遣型ではなく受け入れ側が選考する一般公募で)採用されてる世界中のアーティストのステートメントを探して読み、探して読みしていけば、なるほどそういうことかというのがだんだんわかってくると思います。
アーティストステートメントについてもう少し私見を
私見って言ってもこれまでにご支援したお客様の国外公募戦績はそこそこ良いので、話半分くらいでは信じてもらって良いかと思いますけども。
日本語話者がとりあえず書いてみたアーティストステートメントが「ポエム」って言われること多いですよね
たしかにそれはそうなんですよ。日本の美大や芸大、アーティストステートメントの書き方をおそらく教えていないから、最初はどうしても抒情詩になっちゃう人が多い。
とはいえ(ここから大事な話です)アーティストステートメントのブラッシュアップをお手伝いする側の私からすると、むしろポエム型を原型にした方が当面のゴール(「まずはこれで公募に出して行きましょう」)までご案内する工数は少ないと感じますね。その理由は、ポエム型のステートメントの方がアーティストの本音や表現の根源的な部分にたどり着く手がかりが多いからです。
ポエムの中に顔を出している「アーティストが一番拘っていること」を対話を通して探り、ライトニングトークの原稿みたいな形式で仕上げていく感じ。
別の視点からもう少し説明しておきます。
私は大学の先生をやっていたときに、学生たちのエントリーシート(就活の)を散々添削したんですよ。当時は氷河期だったのでそりゃあ大変でした。
就活のエントリーシートって、私はこんな人間です、こういう理由があるので御社で働きたいです、というようなことを書くわけです。
とはいえ社会学部でしたから、大学で習うことってそんなビジネスに直結しないんですね。それでみんな苦労するんです。
で、最初はみんな取ってつけたような、今で言えば生成AIに書かせたような、「こういうのを書けば良い点が付きますよね?」というエントリーシートを書いてくる。それぞれ必死に書き上げたのは知ってますけど、それを20枚も30枚も一気に見る側からすると、どれも引っかかりや刺さりが無いんです。
たぶんアーティストステートメントも同じで、西洋美術史の本や批評家のエッセイからそれっぽいキーワードを集めてきてデコっても、「必死だな」って思われるだけのことが多いんじゃないかな。
それよりも、もっと個人的な、どうしてもこれだけは自分は捨てられないという拘りについてだけを書いた方が良いよ。
アーティストステートメントって、事業会社で言えばミッションステートメントやブランドスローガンに相当するような文書で、これは(筋論で言えば)その会社のあらゆるアクションの土台となる、価値観やビジョンや方法論の基本方針文書です。
なので、アーティストが作品をつくる、公募に提案を送るなどなど、アーティストとしての活動の全ての根底にあって、その都度「今やろうとしてることは正しい方向を向いているのか?」を確認するための文書がアーティストステートメントになるはず。
ということは、もっともらしい美術評論用語でデコったようなステートメントは(嘘くさいミッションステートメントと同じで)、やっている本人もまともに取り合わないようなものになっちゃうんですよ。事業会社の方のブランディングや組織改革に関わってきた経験から言えばね。嘘くさいミッションステートメントなんかその会社の中の誰も真に受けないので、結果、いかにも嘘くさい会社になっちゃう。
会社のブランディングもアーティストのステートメントも、作った時点では本気でそれを信じられるものでないといけないし、定期的に見直すものだと思います。