エリザベス・L・クライン『ファストファッション』書評

エリザベス・L・クライン『ファストファッション』(春秋社)読了しました。底本となったPB版"Overdressed"は2013年出版です。だからかなり新しい本。

この本はH&MやZaraやForever21やGAP、日本だったらローリーズファームやアースミュージックアンドエコロジーやしまむらが該当する、いわゆるファストファッションの台頭によって世界のアパレル産業がどのように変化したかを概観したルポルタージュです。

時間軸で言うと19世紀末から2010年代までを扱っていますが、特に1990年代から現在に至る25年弱で何が起こったのかが、議論の中心。

要点を列挙すると。

・かつては服はそれなりに高い買い物であり、消費者は自分の服に愛着や敬意を持っていたが、ファストファッションの台頭により現在の消費者にとっての服は、1シーズン持てば良い使い捨ての商品となった。

・服の値段は使い捨てしても惜しくないくらいのところまで下がったが、これは発展途上国の貧困層が劣悪な条件で縫製に従事しているからである。

・アパレルメーカーは巨大企業となり、縫製工場に対して圧倒的なバイイングパワーを行使するようになった。現代のファストファッションブランドは工場に対し、単価引き下げと労働条件の改善を同時に要求している。

・ファストファッションはハイブランドや小規模ブランドのデザインのパクりを安価に大量生産するビジネスモデル。特にフォーエバー21は悪質で何十回もデザイン盗用の裁判を起こされているが、全く反省していない。

・ファストファッションブランドの服は粗悪品なので、リサイクルに回しても再利用されるのはごく一部で、埋め立て処分されるものも多い。

・しかしながら、これまでファストファッションを支えてきた中国の人件費が高騰している一方、バングラデシュなど周辺国の技術やサプライチェーンのレベルは中国とは比べ物にならないので、ファストファッションの価格はこれから上昇するかもしれない。

うはっ。また世界のロクでもない一面を見てしまった。

そもそもfashionの語源、ラテン語factioは「ものを作ること」という意味で、現代の英語でもこの語義は継承されているんです。流行りとされるものや、高級高価とされるものを買って身に付けることがファッションというのは、非常に浅い考え方だと思います。

そこでこの本の著者も、自らを実験台にして、以下の発見をします。

・流行やファストファッションと手を切り、リフォームや自作やベーシックアイテムを厳選することで、本当に自分に似合い、自分の体型に合った服を、ファストファッションを買い漁るのと同じ費用で着ることが出来る。

正しい。
エシカルファッションの思想ですね。

私ですか? 面白ワードローブは妻が生地から選んで縫ってくれますし、バッグは自分で作っちゃえるし。雑誌やウェブ記事にたまに現れるファッション流行指南のカボチャ頭のあんちゃんよりはクリエイティブなつもり。

流行? それはファッションの本質とは関係ないでしょ。ねえ。