アイドリングでおひるねおじさんと真夏の上着の怪(あるいは不快)

 今の季節はあまり見かけませんが、暑さ寒さがきびしくなってくると、わりと郊外にあるうちの近所では、エンジンをアイドリングさせながら、車の中でお昼寝をしているおじさんたちが増えてきます。

 営業の途中にスーパーの駐車場で一休みの4ナンバー。路肩にずらりと並んだダンプトラック。エンジンをかけたまま寝るなというのはどの車の取り扱い説明書にも書いてありますが、お構いなしです。うっかりアクセルを踏み込んでエンジンブローなんてのはまだ可愛い方で、排ガスが車内に溜まってあの世逝きなんてコースも用意されているのですが、近頃の車はよくできているので、なかなかそういうクリティカルヒットは出ませんね。

 でも、アイドリングおひるねおじさんは環境にも財務にも悪いですよねえ。1時間のアイドリングでエンジンはだいたいその排気量分の燃料を消費します。1500ccの4A-FEエンジンを積んだカローラバンなら、1時間でガソリン1.5リッターの無駄遣い。8リッターくらいあるダンプのエンジンなら、1時間で軽油8リッター。クーラーを使うとコンプレッサーを回すぶんアイドリング回転数が上がりますから、もうちょっと沢山ガソリン食いますか。あ~もったいない。とっとと会社に帰れ。

 もう一つ、いよいよ今年から政府も見て見ぬふりを止めるつもりみたいですが、真夏にネクタイを締めて上着を着ている人たちね。あの人たちも環境の敵です明らかに。あのおかげでエアコンはいつも最強。季節に合った服装を心がけている私なんかは寒くてかないません。

 あの悪習を広めたのは、いわゆる「団塊の世代」とその上の世代だそうです。始まったのは1960年代から70年代。それ以前はクーラーが無かったので、ちょっといくらなんでも無理だったんですね。ちょうど彼らが就職する頃に、「真夏の上着」が可能になった。「団塊の世代」こそ、その仕事人生の大半を「真夏の上着」で過ごしてきた最初の世代なんです。

 ちなみに、こんな私にも「真夏の上着」をやっていた(やらされていた)時代がありました。ちょっとだけね。私には気違い沙汰としか思えなかったのですが、会社の先輩は「常識だ。」「礼儀ってもんだ。」の一言で私の異議を退けました。他人の3倍くらい汗をかく体質の私に「真夏の上着」は拷問そのもので、結局は取引先の玄関の15m手前でネクタイを締め、5m手前で上着をはおるという、非常に馬鹿馬鹿しいアイテムと化しておりました*1。

 しかしですよ。よく考えてみたら、「真夏の上着」なんてものは、クーラーという文明の利器あっての扮装じゃないでしょうか。ね。クーラーの普及とともに広まったんだからさ。常識とか礼儀とかヌカしているけれど、その常識その礼儀は地球資源の壮大な無駄遣いの上に成り立っているわけですよ。あまり自慢出来た話じゃない。しかも、この習慣にはたかだか30年40年の歴史しか無い。それ以前の日本列島にそんな奇習は無かったんですからね。アイドリングひるねだって似たようなものでしょう。日本で売られる自動車にクーラーが標準装備になったのって1980年代ですから。
 
 でもね、こういった悪習って、もう「団塊の世代」のおじさんたちに「止めろ」と言っても無駄だと思うんです*2。消費が美徳だった時代を生きてきた方々ですから。しかもその背後には、敗戦直後の強烈にモノが無い時代を生きた反動がある。私だって大学に入るまでは家にファミコン一つ無くてね。その反動でしょうか、家を出たとたんに欲しいものは後先考えずに買い倒す男になりましたよ(笑)。わかっていても止められないんだ。最近はずいぶん落ち着いたんですが(というかこれ以上家の中にモノを増やせない所に来た)。

 ですが、これからの時代、それではやっていけません。ですから、若い世代にその悪癖を植え付けない努力をしなければいけません。子供のうちから「アイドリングひるねは馬鹿のやること」「真夏に上着なんて死ぬほど格好悪いファッション」「クーラーの温度設定は28度」「エネルギーを使う時は南の島の海面上昇を思え。北極の氷が溶けて絶滅しかかっているホッキョクグマを思え。」と叩き込む。

 身に付きもしない英会話なんか小学校で教える前に*3、環境教育しましょうよ。

*1 結局「真夏の上着」とネクタイに音を上げた私は雇われの身から逃亡し、それ以来スーツを着るのは冠婚葬祭の時だけという生活を過ごしております。だから人生で買ったスーツは礼服を含めて合計3着(笑)。

*2 もちろん、「団塊の世代」の中にも、エコロジカルなライフスタイルにシフトして行ける知性を備えた方は沢山おられると思います。

*3 中教審は総合の時数削減と小学校での英語教育推進を答申したそうです。昨日。そんなに英語コンプきついんですかねみなさん。