茨城大大学院理工学研究科の高妻孝光教授が、表題の文章を公開されました。
以下、全文転載します。
1,放射線のサーベイメーターを使って、学校や町の放射線量マップを作って、放射線量が高い場所には近寄らせない。放射線は、結構ニ、三百メートルで変わります。子供達にも、落ち葉か集まる場所とかを聞いてみるといいと思います。もちろん、校庭も、数十メートル単位で調べるといいと思います。
2. 校舎の中で放射線量の一番低いところを、低学年の子供に。校舎の上層階は、三階くらいになると、半分くらいになりますし、場所によっては、低層階でも、放射線が低いところがありますので、一番低いところを低学年の子供達にです。
3. 子供達の実際の生活環境をきちんと把握すること。外に何時間いて、家の中には何時間。頻度の高い場所は、放射線量をモニターすることによって、子供達の被ばく状況を管理できる
4. 子供達の実際の生活空間の放射線量を足し合わせて、1年間における累積量を、見積もること。
5. 放射線の性質を教えること。
6. 雨水のようなたまり水は、早めに捨ててしまいましょう
7. 子供達にも一緒に考えてもらうこと。
8. 放射線量率の高いところの土や砂をサンプリングして、ガンマ線スペクトロメトリーで、どの放射性核種がどの位の放射能を持っているかを把握すること。
要は、誰かが決めたものではなくて、自分たちの科学的行動によって、考えることだとおもいます。
放射線影響の数値の根拠は、個人差も大きく、特に外部被ばくについては、大人のような基準を作ることが、とてもむずかしいです。それから、子供達の生活空間を大幅に変えることも大変なリスクを抱えているとおもいます。
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高妻教授のプロフィールhttp://info.ibaraki.ac.jp/Profiles/6/0000599/profile.html
震災発生直後から私が断固推奨しておりますところの「人社系やらアーティストやら映画監督は完全スルー。素性の確かな専門家の言うことだけ聞け。放射線や原子力関連分野の博士号取得者が望ましい」というフィルタリング基準に照らしても、高妻先生は金沢大の自然科学研究科修了後に同大で博士号取得していますし(だから私と同窓でもある)、業績一覧を見ても、国際誌に毎年のように論文を掲載しているので、現役バリバリの研究者であることは明らかです。
さて提案の内容ですが、1と2は、茨城県内各地を回って農地の空間線量や農作物の線量測定ボランティアを毎日のように行っておられるここ最近の高妻研の活動の成果がダイレクトにフィードバックされていると思います。放射性物質は、要はモノですから、モノはその物性によって集まりやすいエリアと集まりにくいエリアがある。そして放射性物質から出る放射線も、遠くまで飛ぶものと射程距離が極めて短いものがあるから、当然、学校の中のような狭い空間でも、線量の高い場所と低い場所がある。それを自分たちの手で可視化して、線量の低いエリアに、リスクが相対的に高い低学年児童を集める。単に逃げるだけではなく、相手の動きを読んでその裏をかくという、アクティブな放射線防護策ですね。
3と4と8は、積算される被曝線量を二つの方法で予測し、きちんと管理するという提案。1と2が空間的な防護活動とすれば、3と4で時間的な側面での対策を行うわけです。
5と7は、子供たちにも知識を与えて、魔術的あるいはケガレ的な恐怖感を発生させないという、メンタル面での防護策になります。放射性物質に限らず、発ガン性のある物質は環境中にさまざまに存在していて、わたしたちは常にそれらに暴露されています。でも暴露が発ガンに直結するわけではなく、私たちは大抵の場合、発ガン物質によって壊されたDNAを何事もなかったように修復してしまいます。私たちの体には、放射性物質と闘い、その悪影響を跳ね返す力もそれなりに備わっている。そういう意味において、放射性物質は黒魔術や呪術やケガレではない。相手を知り、自分たちの力を知り、科学的に戦う。その戦線の仕組みと状況を子供たちにも知らせ、一緒に戦ってもらう。これは決して不利な戦いではありませんから。退却路も確保されており、補給物資も敵の情報も潤沢に供給されている、言わば必勝の戦線。一番マズいのは、情報不足による士気の低下そしてその結果としての戦線の崩壊でしょう。
科学的思考と、人間の力への信頼に立脚する、素晴らしい提案だと思います。