お中元の季節ですが

 スーパーやデパートが「お中元商戦」に突入しています。近所のスーパーでも醤油だのビールだの素麺だの洗剤だのが山積みになっておりました。私も昔、ある酒の卸でビールのギフトセット作りをしたことがあります。

 こうね、デパートから伝票の束が回ってくるんですが、それに従って化粧箱を組み立てて、段ボールに入っている缶ビールを出してきて化粧箱に入れる。そして伝票を貼って台車に入れておく。書いていると思い出されますね。あの古ぼけた物流センターの薄暗い空気感とか、業務用エレベータのブザーの音。パレットの上に山と積まれたビール。

 それだけじゃないですね。ギフトセットに詰め替えたら当然、その中身がもともと入っていた段ボールはゴミになります。そんなのが毎日、カゴ車に2台ぶんくらい出る。

 それからね、殆どは市内に配送されていくんですが、たまに遙か彼方の町まで送り届けられるギフトもありましたよ。でもその中身は日本中どこでも帰るサッポロ黒ラベルやエビスビールなんですねえ。日本酒の方は違ったかな。日本酒は地酒というのがありましたから。宗玄とか手取川とかね。

 今日私が見かけたのはキッコーマン醤油に三輪素麺にニュービーズにアサヒスーパードライ。全部ナショナルブランドですわよね。しかも、値段のわりに嵩張る品を選ぶのがお中元のポイントですから、ああいうのをわざわざ私の住んでいる町からどこかの町まで運んでいって配送するにも、トラックいっぱい使うでしょうね。だから道路ふさぎになるし、燃料もいっぱい食う。包装材をこれでもかと使うから、ゴミも沢山出す。

 私、こういった贈り物そのものは否定しません。贈与経済は人類史とともに古くからあり、そして今後も残っていくであろうものです。そのポイントは、お金ではなくてモノをまずどっちかがプレゼントするという事。そうすると貰った方は借りが出来る。でもモノで貰ったからモノで返す。すると返された方に借りが出来る。モノで返す。

 こういった形で、人と人、集団と集団の間に常に貸し借り関係が残るようにして、これらがバラバラになってしまわないようにするのが贈与経済のメリットです。その点、貨幣経済は違う。誰が持っていようとカネはカネです。その場限りでやりとりが完結する。どちらにも貸しも借りも残らない。だから、振り込め詐欺なんかで巻き上げられたお金は返ってこない。使ってしまって第三者に渡ればそれでアウトですもんね。

 そういうドライな取引ではない、関係を継続させる取引も大事です。

 贈与された側が贈与した側に単純に返礼するのではなく、また別の誰かに贈与するという、贈与物が共同体の中をグルグル回っていく事で、共同体の結びつきが維持されるという贈与もある。航海カヌー文化復興運動はまさにこれでしたね。サタワル島からハワイに伝統航海術が贈与され、アラスカの先住民からハワイに、カヌーの船体となる巨木が贈与されました。そうやって頂いたものを使って航海カヌー文化を蘇らせたハワイは、タヒチやクック諸島やマオリに伝統航海術を再贈与し、あるいはハワイの若者たちに再贈与していきました。たぶん、「海人丸」もまた、ハワイから日本に贈与されたものを使っているのだろうし、同時に沖縄の海洋文化であるサバニも頂いて使っている。すると、「海人丸」というハイブリッドな船によって、沖縄とハワイの間に贈与の環が繋がるわけです。

 だから、贈与は良いと思います。続ければ良い。

 ですが、日本中どこででも買える、安くて嵩張るモノを、わざわざ豪華に梱包して遠い地方まで配送するのはどうでしょうか。一昔前ならば許されたかもしれない。ですが、地球環境保護の観点から見れば、あまり効率的なものとも思えない。

 何か、もっと気の利いた、環境負荷が低いお中元あるいはお歳暮、考えてみても良いんじゃないでしょうか? 少なくともキッコーマン醤油6本セットを送りつけるなんてのは、もう止めて良いと思います。私だったらそんなものよりも、心のこもった手書きの手紙をいただいた方がはるかに嬉しいな。だってそれこそワン&オンリーなギフトですから。特に普段メールでしかやりとりしていないと、そういったアナログなものが愛おしくなる。

 違いますかね?