秋葉原プログラミング教室のエニグマ

デジタルハリウッド大学教授が経営に手を出して17ヶ月で潰れたアンチScratchのプログラミング教室について、もう少し考えてみた。(Scratchをめいっぱいdisるところからスタートした時点で99%負け確定だったとは思うが、それ以外の点でも)

最大のエニグマは立地とキャッシュフローの計算だ。

上野一丁目という立地の賃料相場と教室面積から推測して賃料が最低でも毎月30万円強。機材や什器やサーバ代や登記費用、入居時の敷金礼金などもあるから、人件費を時給バイトでギリギリまで抑えても、毎月100万円は売り上げがないと、ランニングコストすら持たないのではないか。安定経営するなら200万円/月は売れないときつい。なにしろ多店舗展開でバックオフィス機能や広告費を統合してコスト圧縮出来るわけでもないのだ。

アンチScratchを掲げるなら、広告費は更に嵩むわけだし。

「何でScratchじゃないんですか?」

という話を、「Why? プログラミング」を毎週見ているような子と、その保護者に15分で説明して、200%納得してハンコ押してもらわないといけないのだから(「検討します」で資料お持ち帰りの展開は99%成約しないと思うよ)、「Why? プログラミング」やScratchの倍以上の密度で広告を投下しなければ勝負にならない。自分がここのバイト講師だったら、この時点で辞めたくなる。何しろ客が入る以前のところに高いハードルがあるのだから。バイトが逃げれば求人費の追加一丁! これだけで10万円は軽く吹っ飛ぶ。

しかし仮に集客がなんとかなったとしても、ベーシックコース14000円/月だけだと、70人生徒集めてもきつい。だが28坪の教室に70人は入らない。この立地は、月35000円のAI学習コースを15人くらい集める想定だったのか。

だが、同じエリアに子供向けでリタリコが教室を出しているし、社会人向けはテックジムがある。どちらも費用は遥かに安いし、ブランド力もある。特にリタリコは強い。そんな中、ドメスティックITおじさん界隈がメインの「清水亮」ブランドで既存大手の1.5倍~1.75倍払う客が数十人、秋葉原エリアに居るのかどうか。競合のリタリコやテックジムは月10000円からで、更に各種特典が付いているのだ。

結果としてどうやら岡田ブロック(清水らが開発したアンチScratchのブロックプログラミング言語。JSとの互換性が売り)とか清水亮ブランドは通用しなかった気配ではある。

それにしても、何故わざわざ最初から固定賃料がかかる運営形態にしたのかが謎なのだ。Coderdojoのように場所はレンタル、講師は月3時間の片手間でMOONblock教室やAI教材を試して、市場調査しても良かったのではなかろうか。

それをしないなら、リタリコやリクルートやベネッセやサイバーエージェントや学研など巨大親会社があって、黒字化出来なければさっさと撤収で終わりにするという建付けでもなければ、ちょっと危なくて関われたもんではないと個人的には思う(親会社があってさえこういうマイナー教室のイチカバチかの立ち上げは生き地獄だから、大きな会社で割増の年俸のある正社員でもなければやってはいけない)。

ちなみにこれが決算公告。

発表日 2019年03月29日
会社名 株式会社UEIエデュケーションズ
住所 東京都台東区上野一丁目16番16号
代表 福岡 俊弘
決算末日 2018年12月31日
純利益 ▲1603万6000円
利益剰余金 ▲2221万6000円
総資産 1408万4000円

2年やって損失が2200万円以上。しかも2年目で赤字額が一気にハジけて1600万円。毎月133万円の赤字を出している。これは親会社が相当に大きくなければ即死の数字だ。会社清算までの8ヶ月で更に1000万以上は溶かしたのではないか。恐ろしいことだ。

詳細はよくわからないが、パッと見は

「IT界隈のちょっとした有名人が、多少まとまった老後資金を持っている定年前後のサラリーマンにリスクを取らせて起業させたら、案の定コケた」

という、定年後のカフェ起業で退職金を溶かすパターンの変形のようだ(実態がどうかは知らないので断定は避ける)。

傍から見れば、こんなのどう考えても虎の子の老後資金を突っ込むような案件ではない。月々100万円以上が口座から消えていく上に、傷口はやればやるほど広がっている。いったいどういう流れで手を出してしまったのだろうか。清水亮が自社の財務悪化を恐れて、ギャンブル性の高い新規事業を他人の手金でやらせたようにも見えるが。

この投資はもう回収出来ないだろう。MOONblockが突如大ヒットする未来を想像することは、ファンタジーノベルとしても非常に難しい。私が友人知人に、子供のプログラミング入門の方法について相談されたら、やはり「Scratchの入門書を買って一緒に触ってみて、好きそうならお近くのCoderdojoへ。更に進みたければCoderdojoにライセンスが無料開放されているPROGATEのお試しをして、本格的にやりたいとなったら自宅でPROGATEに課金」と答える。