開戦直後に帰国したものの夏前にしれっとサンクトペテルブルクにお戻りになってスイーツや観光地の写真を上げまくっておられた日本人音大生のアカウントがツイッター民に発見されたらしく、マシュマロを介して批判が殺到して困っておられるのだが、夏前というとブチャの虐殺は周知の事実だったわけで。
サラリーマン/ウーマンが社命でどうしてもロシアに戻らねばならなかったのなら致し方ないのだけれど、21世紀の国際基準だと、こうした人権・人道上極めて問題が大きな存在であるということを誰でも知っている段階で、アーティストがわざわざそこに近づけば非難殺到不可避。
開戦直後に西側のあちこちでプーチンと親しい音楽家が解任・辞任となったこと。つい先日もロジャー・ウォータースが「プーチンのプロパガンダの片棒を担いでいる」としてコンサートがキャンセルとなったこと。
あるいはナチスや日帝に協力していたアーティストたちが戦後批判されたこと。
特に芸術系の大学の場合、修士ともなればセミプロ扱いでどんどん仕事を取りに行くわけで、アーティストとしてのキャリアデザインを考えて動く必要はあるだろう。日本の美大や音大は実技重視で現代史や政治思想史や哲学はほとんど教えないような印象があるが、それがこういうときに弱点になるということか。
(とはいえロマン派や古典派、ロシア国民楽派などそもそも帝国主義時代のバリバリゴリゴリのcolonizerたちのための音楽として作られたのだから、留学先の国の軍隊がナチスドイツ並の非人道的なことをやっている最中であったとしても「私には関係無いことなので」と切り捨てるのは本格的といえば本格的とも言えるが。)
いずれにせよクラシック音楽の実演家は現代では大学教育を通して育成される以上、現代のartistとしてポストコロニアル批評は学部で習っていて当然と見られる。そこで教えられる内容をきちんと理解していたら、ブチャの虐殺以降にロシアに留学することの意味はわかっていたはず。この戦争は世界史的・思想史的大事件であって、今は21世紀だということを。
自分を少なくともartistの端くれと認識しておられたのであれば、そうでないとおかしい。
artistではなく「楽団員」というアイデンティティなら「親方のやることに口は出せないんで」となるだろうけれども。
究極的には個人の生き方の選択なので自由に生きられたら良いであろうし、男性でなければいきなりロシア国籍を付与されてウクライナの戦場にご案内なんてことも無かろうし、この時点でもうCV的に「西側」でプロとしてバリバリ活躍出来る可能性は相当に減じているであろうし(そもそも日本人がクラシック実演家として欧米でポリティカルコレクトネスが問題とされるようなレベルまで上がっていくこと自体が超絶レアなので気にする必要は無いとも言えるが)。
とにかく無事のご帰国を祈るのみだ。