Art Outbound Digest Vol.2

キャラクターアート(とでも呼べば良いのかというもの)について

 Art Outbound Digest、2回めの記事となります。

 初回はこの部分にご挨拶を入れていたのですが、毎回ご挨拶してもしょうがないので、今回からは現代アートの世界をビジネス視点で見ての雑感を毎回書いていこうかなと思っています。

 で、今回は最近、私がモヤモヤを感じているキャラクターものの現代アートについて。

 (モヤモヤを感じているという言葉は、ここでは「まだ自分の思考で整理できていない」「自分の思考の中でどこの棚にしまえば良いのか決めきれていない」という意味で用いています。好き嫌いや許せる許せないのような感情的な話では一切ありません)

 今年の六本木アートナイトは村上隆を看板として、藤子・F・不二雄の「ドラえもん」を徹底的に使い倒して人目を惹くというマーケティングでした。日本人ならほぼ誰でもドラえもんを見れば一瞬、視線を止めますから、これは単純に広告戦略としては非常にコスパが高いです。だからドラえもんは何度も何度も国内現代アート作家の寄り合いイベントのテーマになっている。あまりにも誰でも知っているモチーフで説明の必要が無く、かなり強烈な変形を加えても「ドラえもん」だとわかってもらえて、それぞれの作家の手癖で処理すれば簡単にそれっぽく仕上がる。しかも集客力も抜群。ドメスティックビジネスとしては鉄板の企画です。

森美術館の定番企画でもあるドラえもん。

 少し引いた(=広角レンズの)画角で見れば、日本の現代アートビジネスが「ドラえもん」に乗るのは、既に圧倒的な知名度があるIPへの相乗りが有利すぎるという、SNS時代のアテンションエコノミーが現代アートの世界でも効いているということの証拠でしょう。そして同じ企画を数年ごとにやるというのも、一度当たったタイトルは徹底的に続編を作り倒して客を沼に沈めるという、ディズニーお得意の(スター・ウォーズやマーベルシネマティックユニバースのことですよ)ビジネスモデルの応用です。

 現代アートってそういうものでしたっけという疑問もわかないではないですが、「これはビジネスですから」。

 キャッシュフローが動いて作家が食えるんなら全然OKだと思います。毎月でもやってくれて良いし、なんならドラえもんだけじゃなくてウルトラマンや仮面ライダーやソードアート・オンラインやガンダムをテーマに国内現代アート作家が招集される企画も立ち上げようぜ早く、とすら思います。

 ま、これに限らず今現在の日本市場でアテンションが集まりやすいのは、何かしらのキャラクターを使ったアート作品なんじゃないかな、というのが今日のインサイトです。

 村上隆のdobくん、奈良美智の例の女の子、草間彌生の水玉カボチャ。

 あるいはKAWSやバスキア、モンドリアン、ウォーホル。バンクシー。

 とにかく「ああ、あれね」ってすぐに思い出してもらえる顔・形・テクスチャがブランドシンボルとして確立されていて、ビジネスとしてのトラクションがかかれば即ミュージアムグッズに横展開出来るものを持っている作家が強い。

 (今現在の日本市場では、ですよ)

 この種のブランドシンボルがブランドコミュニケーションの中に組み込まれている作家の作品を、仮にキャラクターアートと呼んでみることも可能でしょう。

 そういうものが無い作家が相乗りでAAA級キャラクターに便乗したビジネスの機会をもらえるのが森ビルのドラえもん定期アートで、言ってみれば歳末のベートーヴェンの第九演奏会の現代アート版のような企画と考えると、色々と腑に落ちます。

 面白い展開の方法としては、藤子・F・不二雄の画風を完コピした上で架空のモブキャラを1点ものの絵画作品として量産するというキャラクターアートのビジネスモデルも生まれています。

 キャラクターアートが強い日本市場でジュリアン・オピーのスタイルでキャラ部分の画風だけを藤子・F・不二雄に入れ替えるというのは非常に優れたアイデアで、既にアジア市場にも進出出来ているようです。

 非常にわかりやすいブランドシンボルを構築して同じような絵を量産し、様々なグッズへと展開していくというビジネスモデルは、1980-90年代にはヒロ・ヤマガタやクリスチャン・ラッセン、シム・シメール、鈴木英人といったイラストレーターたちが大々的に展開していました。天野喜孝など日本のアニメ業界で画力の高い人たちも一部はこのビジネスモデルに取り込まれたりもしています。アールビバンという会社が有名ですね。

 こうしたブランディングによるアートビジネスが今はキャラクターアートや、ヘラルボニーがやっているような障害者アートにおいて(日本市場では)上手く回っているのかなと思います。

 現代アート作家としてアウトバウンドしていく際には、このような日本市場の特性に合わせすぎた創作はむしろ現代アートの世界では周縁的な実践(というか商売)に熱心な人と見られて逆効果かもしれませんが、わかりやすいブランドシンボルを幾つか構築したブランドコミュニケーションという考え方には、学ぶところも大きいと思います。

2:ピックアップアーティスト

File 2  ジャデ・ファドゥジュティミ Jadé Fadojutimi

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