おそらくはツァルガの陰謀により、イスベル子爵領の人口と税収はジャグリアが経営を任されてから3年で1.3倍にまで増えた。
こうなると、家臣団や領民も次代のマハラビエ侯爵にはツァルガではなくジャグリアを望むようになる。更にツァルガは頃合いを見計らって、近所の村娘との秘密結婚という火玉を放り込んだ。大貴族の長男であれば、同じ格の大貴族の娘と結婚するのが当然とされるアルソウム連合王国において、これは決定的な醜聞とされた。
アルソウム族の部族法では結婚には家長の許可が必要であるが、シムロン家の宗派であるアサブ教では、聖職者となって20年以上の者の司宰で結婚式を行えば、それで結婚は成立したと見なされる。公認4宗派の聖堂内には世俗法は適用されないから、この結婚は部族法違反と言い立てても結婚を無効にすることは難しい。世俗法と宗教法のいずれに対しても最上級裁判権を持っている王室最高裁判所にまで訴訟を持ち込めば無効になる場合もあるが、それは醜聞の火に油を注ぐだけだ。
ツァルガはどこまでも悪辣であり、法律と宮廷政治の裏の裏まで知り尽くした男であった。
エブリスタの「次に読みたいファンタジーコンテスト / 宮廷・継承・王族がテーマの小説を募集」に応募している作品です。
現在5章に入っています。どんどん面白くなってきました。
この作品では、大貴族の家を継承するとは、いったい何を受け継ぐことなのか、これをテーマとしています。
単に権力や財産や地位を受け継ぐということなのか?
それとも、それら以外のなにかもまた、主人公は受け継ぐことになるのか。
あ、もちろん私の書くものですから、わかりやすい秘術だの秘宝だの奥義だのは一切出てきません。
魔法も超能力も形成過程が不自然な財宝も無い。
そういうものを出さないからこそ、創造力が刺激されます。個人的には。
また、この引用では悪党とされているツァルガも、実は侯爵家より遥かに大きなものを継承し、次世代に引き継ぐ運命のもとにある人物です。
あと、関係無いですけど京アニさんに支援金、些少ですが送金させていただきました。世界最高のアニメ制作会社の復活を祈って。