山国に海の人々がいるとはこれいかに

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 以前、記紀神話における海洋神と天皇家の祖先神話の関係を紹介しました。

 天皇家の祖先が高天原から降りてきて日向(宮崎)で過ごしていた頃、海の神様との婚姻関係を繰り返しながら生まれた子供がカムヤマトイワレヒコすなわち初代神武天皇になったという神話ですね。

http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/38420.html?p=&t=2
http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/42431.html?p=&t=2

 その神話の前フリとして、3セット9柱の海の神様が登場しました。イザナギ神が創造したツツノオ神とワダツミ神、そしてスサノオ神の持ち物から生まれたムナカタ女神です。これらの神々はそれぞれ3柱で1セットになっています。例えばムナカタ女神は

奥津島比売(おきつしまひめ)
市寸島比売(いちきしまひめ)
多岐津比売(たきつしまひめ)

の3柱。ですからこういった海の神々を祀る神社には、だいたい3つの社があります。例えば江ノ島神社はムナカタ女神を祀っているので、奥津宮、中津宮、辺津宮にそれぞれ奥津島比売、市寸島比売、多岐津比売をお祀りしています。

【公式】日本三大弁財天・江島神社
日本三大弁財天を奉る江島神社は、田寸津比賣命を祀る「辺津宮」、 市寸島比賣命を祀る「中津宮」、多紀理比賣命を祀る「 奥津宮」の 三社からなる御社です。

 さてさて。何故、日本の古代神話には海の神様が3系統も登場するのでしょうか。一つの考え方として、当時の国内の政情を反映しているから、というものがあります。国内に配慮せねばならん各方面があったので、そういう配慮を色々と配合してあるんじゃないの、とね。

 しかし海の神様に何の配慮が必要なのか。海の神様は1系統にまとめちゃえばいいだろ。え。靖国神社だってA級戦犯もそれ以外の戦死将兵も一緒くたにお祀りしてるんだから*1。

 いや、それじゃマズいんですなあ。中国や韓国が嫌がっているのも、A級戦犯に参拝される事であって、それ以外の戦死将兵を祀るのは構わないけど、A級戦犯だけは勘弁してくれという事らしいです。

 これと似たような話が古代日本にもあったんじゃないか。というかあったというか。

 古代の日本の海には海人と呼ばれる人々がおりました。「うみんちゅ」じゃないです。「かいじん」。海産物を捕って朝廷に納めたり、朝廷に納められるものを海上輸送したりという形で、朝廷と深く結びついておりました。

 その海人集団が3系統あったんですな。

ワダツミ神を氏族の祖先とする安曇族(あずみ)。
ツツノオ神を氏族の祖先とする津守族(つもり)。
ムナカタ女神を氏族の守り神とする宗像族(むなかた)。

 これらは朝廷にとってそれぞれに「使いで」*2がありましたから、それぞれに配慮した結果、海の神様が3系統9柱も登場してしまったんじゃないか。そういう見方も出来ます。

 ところでこの安曇族、どこかで見た字ですよね。そう、信州の観光地、安曇野です。伝説によれば、遠い昔に安曇族が日本海側から川を遡って信州の山の中に現れ、開墾したのが安曇野なのだそうです。
 
*1 何故か先の大戦で命を落とした民間人は祀られていないのです。変なの。
*2 この「使いで」の中には、アワビなどの高級珍味海産物が朝廷での祭祀や儀式に欠かせなかった、という要素もあるのではないかと言われています。タンパク質というだけならそこら辺に歩いている犬でも締めて使えば良いわけですが、ある特定のタンパク質が高貴で霊的な力を持つとされていたんですね。人間の宗教心が海人集団と国家権力を結びつけていたというのは、面白いです。

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画像は青木繁による名画「わだつみのいろこの宮」。3月に久留米の石橋美術館で私も見てきましたよ。これは山幸彦がワダツミ神の宮殿に赴いた際の情景を描いています。