日本人のルーツ探索マップ

 ここ数日はちょっと堅い話が続いたので、今日は読みやすい本の紹介です。

道方しのぶ『日本人のルーツ探索マップ』平凡社新書(2004年)。

 著者は電通大大学院修士課程修了からメーカーの技術者を経てフリーライターになられたという、ちょっと変わった経歴の持ち主です。まあこんなこと書いている私自身、相当に変わった経歴で生きていますから、あまり他人のことは言えませんが。

 内容の方ですが、古代日本列島に住んでいた人々の源境について、港川人などの旧石器人、縄文人、弥生人に分け、それぞれについて、源境として比較的有力と見られるいくつかの地域や集団を紹介するといった体裁です。ざっと挙げれば、

旧石器人…東南アジア、南シベリア、韓(朝鮮)半島から沿海州
縄文人…沿海州から遼河、長江下流域、韓半島南部
弥生人…韓半島南部、江南、黄河流域、華北、南西諸島

 これら諸地域について、最新の研究成果を渉猟しつつ、それぞれの可能性をざっくりと見積もって提示しておられます。

 日本列島人のルーツについては、このウェブログでも何度か取り上げていますし、リモート・オセアニア諸地域の航海カヌーの民と日本列島人との関係についても、ブラスト=ベルウッド仮説や後藤明仮説を紹介する中で触れて来ましたね。長江下流域から台湾島にかけて、あるいはフィリピン・マレーシア・インドネシアの間の多島海において発生した海洋文化のうち、ある集団はそのままそこに残り、ある集団は黒潮に乗って北上して日本列島に到達し、ある集団はニューギニア経由でポリネシアやミクロネシアに拡散していったのではないかと。

 この本では102-123ページで論じられている「長江下流域」というのが、このブラスト=ベルウッド仮説や後藤明仮説と関連する部分です。この本では日本列島人の源境というテーマに話題を絞っているので、東南アジア島嶼部やリモート・オセアニアについての言及はありませんが、みなさまがこの本を読まれる時には、そこらあたりを脳内で補完していくと、「太平洋世界の中の日本列島」というイメージを呼び起こす事が出来るのではないでしょうか。

 また、それに限らず日本列島人の雑種性についてもよ~く理解出来る本だと思います。つまり単一の起源や単一の身体形質、単一の遺伝子系列を持つものではない、地球上の様々な場所から縁あってこの島々に流れてきた人々が長い時間をかけて創り上げて来た、そして現在も創り続けられているのが日本という場なのだという事ですね。

 所々で考古学の専門用語を意味の解説無しに使っていたり、現在の地名や国境をそのまま何千、何万年前の古代に当てはめている(例えば「トナカイ遊牧民で知られるネネツ族はもともとロシアとモンゴルの国境付近にいたとされる」と書いてありますが、その「もともと」がいつかと言えば、紀元前数百年という時代です。そんな時代にロシアもモンゴルもありませんので、読んでいてかなり混乱します)など、若干文章は読みづらいですが、740円という値段を考えるとあまり文句も言えません。

 日本列島人のルーツについて考えてみたい方には、かなりおすすめの本です。