ポリネシア空白地帯

 しばらくは奄美旅のご報告ブログになります。

 お前、航海カヌーはどうしたって? ご心配なく。奄美にもすごい航海カヌーがありました。伝統カヌー復興プロジェクトもありました。それらもおいおいご紹介しますからね。

 さて。

 標題の件。ポリネシアが無い地域。何のこっちゃと思われるでしょう。これ、奄美のことです。

 南国系海浜リゾート地(・・・未満)なのに、ポリネシア文化の移植が殆ど目に入らないんですよ。本当に。例えば神奈川県の相模湾沿岸など、ハワイ大好き系の方々が軒を連ねて商売をしておられる。ポリネシア系のアウトリガー・カヌー・クラブが沢山活動しておられる。もちろんサーファーもいっぱいいる。

 そういう形でポリネシア文化が移植され、根を下ろしている。

 沖縄もそうですね。

 そういうのは、悪くない。悪くないのだけれど、国内の南国系海浜リゾート地が全て疑似ポリネシアと化すのもいかがなものか。海があってハワイ好きな人がいっぱいいるから、ハワイ文化を持ってくれば良いというもんでもなかろう。海があればそこにアウトリガー・カヌーとサーフィンを移植してダブル・カヌー型航海カヌーを建造して、それでハッピーということにはならんでしょう。

 ですから、奄美を旅していて、南の海と珊瑚と白い砂浜があって、でもポリネシアの気配が無いという所で、すごく感心したわけです。きっと沖縄でも離島なんかだとそんな感じなんでしょうね。本来の南西諸島の海の佇まいがある。ポリネシアが接ぎ木されていない。私、ガイドの肥後さんに訊いたんですよ。「ポリネシアのアウトリガー・カヌーのアクティヴィティは無いんですか?」って。そういうのは無いですねえ、と言われました。シーカヤックも移植されてそんなに時間は経っていないらしいです。

 何故私がそんなところで沁みていたのか。

 実は、航海カヌーのことを勉強していて、特に日本国内での語られ方が、ともするとただのハワイ礼賛の一変種にしかなっていないんじゃないかと感じる瞬間もあり、何か息苦しさを感じていたんですよ。私自身、そういう語り方の一角を担ってきたのは明白ですが。色々と勉強すれば、当然、ハワイにだって矛盾や足りない所があるのは見えてくる。ただ、ポリネシア航海協会やナイノア・トンプソンさんが社会的に極めて大切な取り組みをしているのも事実であって、なかなか批判しづらいものがある。

 ある種の悪循環です。

 そんな状態で奄美に行ってですね。ハワイが無いってことがこんなにも軽快なことなのかと、ちょっとびっくりしました。ハワイから離れられることがね。シマ唄の唄者のおばちゃんの飲み屋で隣のおじさんに奄美のことを教えてもらったり、潜り漁師をしている民宿のおやじさんに奄美の海産物のことを教えてもらう。心の中には白い砂浜と珊瑚礁の海が横たわっているのだけれど、そこにはハワイが無い。ハワイに侵蝕されていない。ついでに、あの存在感たっぷりの沖縄文化も無い。それが何と貴重なことか。

 民宿のおやじさんが言っていました。「奄美はね、あるのは海と山だけだよ。他には何にも無いよ」

 たしかにそうなんです。奄美文化、琉球王国や薩摩藩に支配されていた時期が長いので、淡いんですよね。たしかにそれはあるんだけど、俺が俺がと自己主張をしない。「まあ、何も無いけど楽しんで行ってよ」という感じ。すごく力が抜けている。でも、そこが沁みる。

 好きだなあ、奄美。