ブックオフでポイントを使ったら80円で買えた文庫本です。
詳しいことはそのときには知りませんでしたが、1990年代前半に世界的ベストセラーになった本だそうです。
翻訳しているのは大蔵官僚から転じてスピリチュアル系のライター兼翻訳家になった人と、その奥様(元マッキンゼー・アンド・カンパニーだそうです)。東大法学部卒と東大経済学部卒で大蔵官僚とマッキンゼー・アンド・カンパニー。ところどころで変な訳語がありましたが(アラビア人なのにイスラムの教祖をマホメットとトルコ語読みしてるとか、聖ヤコブを「聖サンチャゴ」と訳しているとか。サンチャゴのサンが聖、チャゴがヤコブなので、聖聖ヤコブになってしまうよ。スプーンとかゴールとかプレゼントとかナップサックとかの英語由来のカタカナ語が多いとか。ムハンマドのことを「予言者」と訳しているのはさすがにこれ大丈夫なのかと思いましたがね。イスラムなら預言者だろうがよと。でもまあ原文もそうなのかもしれないので保留)。
物語は、アンダルシアの羊飼いの少年が夢のお告げに従って北アフリカを旅してギザのピラミッドを見に行くというもの。たぶん19世紀後半以降のお話です。ライフル銃が普及しているから。少年はピラミッドの前で、アンダルシアの教会跡に財宝が隠されているという予知夢の話を聞いて、故郷に戻って財宝を発見するというオチ。
夢に向かって進めば、それは現実になるから、途中で諦めちゃダメ、みたいな教訓の押しだしがかなり強めで、ファンタジー小説としてはさほど評価出来ないかなあ。主人公が発見して満足したものが古典的な財宝というのも、ちょっと疑問。彼はタンジェでビジネスで成功して旅費を作ったので、カネが欲しいならそこでビジネスを続けた方が確実だったしなあ。つまり、ゼニカネの追求がしたかったのか、冒険がしたかったのかが、ブレて終わるんですよ。ゼニカネの追求なら冒険のプロセスでゼニカネを捨てて先に進み続けた理由が説明出来ないし、冒険したかったなら何で最後に金銀宝石を見つけて喜ぶのと。
一方で、この本が3000万部だか売れまくったというのも事実で、ビジネスとしては超弩級の成功です。
何故なのか。
仮説は幾つか立てられます。
- めちゃめちゃ薄い本で、誰でも読める。
- シンプルなメッセージ「夢を諦めない」「夢を諦めなければ必ず導きがある」がウザいくらいに繰り返して出てくるので、誰でも理解できる。
- 主人公の内面描写から現代的な葛藤を出来るだけ廃して、ただのハコみたいなキャラにしている。いわばドラクエの主人公。
- こうしたデザインを、アンダルシアと北アフリカというエキゾチックなイメージの舞台装置で、上手くまとめた
だから広く受け入れられたのかなあ。
自分で書きたいとは思いませんが、ビジネスモデルのケース分析の素材としてはまあまあ、役に立ったかも。