書評:南塚信吾『アウトローの世界史』

南塚信吾『アウトローの世界史』 (NHKブックス  1999)

著者は東欧、特にハンガリー史を専門とする歴史学者です。津田塾大学、千葉大学、法政大学で教えていた方。もう引退されています。

ハンガリーではオスマン帝国の支配下にあった16世紀から、オーストリア=ハンガリー二重帝国の19世紀半ばまで、ハイドゥクとかベチャールと呼ばれた盗賊が活発に活動していたのですが、筆者はハンガリー史研究からこの盗賊一般に興味を広げ、ホブズボームによる義賊論とウォーラーステインによる世界システム論を組み合わせて、16-20世紀の間に世界各地で活動した「義賊」たちを、世界システム論における中心、準周縁、周縁の分類と組み合わせて概観しています。その中にはジェシー・ジェームズやビリー・ザ・キッドのようなアメリカの盗賊も出てきます。

大まかに言えば、「義賊」とは実態よりもむしろ民衆の持つイメージの中の存在であるけれども、それらのイメージが生まれた背景には中央集権的で強力な権力の不在とか、地域政治における親分子分関係の崩壊といった共通する要素がある、また、義賊とは言うもののそれらの実態のほとんど全ては在地の権力者と裏で繋がっていたり、単にコスパが悪いから弱者を襲わなかっただけ、というのが本書の指摘です。

個々の「義賊」についての記述は(ハンガリーの諸事例を除くと)少なめなのですが、南米やビルマ、アフリカ、東欧、イタリアなどの盗賊の話は日本では殆ど接する機会が無いですから、その部分だけでも本書は一読の価値があると思います。

この本は1999年に出ているので、その後のインターネットの発展とネット空間での「義賊」的な人物・グループ(ジュリアン・アサンジや西村博之、ハッカー集団「アノニマス」など)の活動であるとか、中東やアフリカや東南アジアにおけるイスラム過激派の活動、「イスラム国」のような存在はもちろん議論の範囲外ですが、周縁的な場所に「義賊」的なものが現れるという構造は本書の指摘の延長線上にあると思います。当然、「義賊」の実態も同じようなものです。すなわち、「義賊」は20世紀で終わったのではなく、21世紀にもなお出現し続けている(あるいはむしろ、強力になっている)と言うべきかもしれません。

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