インターンシッププログラム・プレミーティング

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 昨日は加藤ゼミのインターンシッププログラム・プレミーティングでした。

 最初は声の出し方のチェック。といっても応援団とかお店の呼び込みみたいに、ただやみくもにでかい声でがなりたてる練習ではありません。会議室のホワイトボードの前に一人で立ってもらい、机の周囲に座っている他の学生の名前をはっきりと大きな声で呼んでもらう。それだけです。そんなの簡単だと思うでしょ。

 上手く出来ないんですよ。誰一人として。そりゃ声を出すことは出来るし、名前を呼ぶことも出来る。でも大きな声ではっきりと(これは要は会議室でプレゼンをする場面を想定しているんですが)名前を呼ばせると、もう嘘くさい。素人の演劇で大根役者が喋ってる台詞にしか聞こえない。笑っちゃうくらい嘘くさいんですよ。「呼びかけている」という感じがまったくしない。ヤケクソででかい声だして、指示された台詞を言ってみただけという状態。

 そこでは何が起こっているのか? 君たちは、声を出して相手に呼びかけるということを、誰が聞いても同じ意味内容として解釈してくれるであろう固有名詞を音声化することと考えているだろう。でもそれだと、今試してみてわかったように、実は全然呼びかけにならない。嘘っぽい、つまりは呼びかけることが出来ていない。これは呼びかけるという行為を「特定の名前を発声する」「声量の大小を調節する」という二つの変数でしか捉えていないからなんです。

 ここでやらなければならないのは、「呼びかける」という行為についての認識の総入れ替えです。「呼びかける」ことは、でっかい声で名前を呼ぶことではなく、自分の体と相手の体を、呼びかける声によって同時に響かせること。別の言い方をするならば、自分の体と相手の体を二つの共鳴体を持つ一つの楽器として捉え、この楽器を綺麗に鳴らしてやることなのです。ということを解説。

 この後、「礼儀」の歴史を孔子の時代に遡って解説して、礼儀やマナーには、それを使うことによって相手の行動の選択肢をこちらに都合が良い方向に絞り込んでしまう呪術という側面があるという話を。

 ここまでのレクチャーで前半戦は終了。休憩を挟んで後半は「職業人にとっての、大学教育の価値」についてのグループディスカッション。まずブレインストーミング法の基本を教えて、「それぞれが持ち寄ったアイデアを整理し、時間内に最低6つのアイデアを追加せよ」と指示。それが終わったら、今度はカードを渡してKJ法でアイデアを整理する練習。ところがこのアイデアの分類整理が難しい。最初のプレゼンは全然意味がわからないものだったので、もう一度時間を与えて再挑戦させました。二度目はそれなりにマシなものでしたが、まだまだですね。私はすぐに効果的な分類の尺度を思いついたんですが、じっと我慢で彼女らの試行錯誤を見守りました。

 さて、彼女らの考えてきた内容は、基本的には大学という制度に守られていることで、様々な試行錯誤をすることが出来るという点を重視したものでした。それは確かに大事なポイントです。ですが、君らは一番大事なことを見落としている。それは、大学の講義の中身そのものが、将来大きな財産になりうるということ。

 確かに最前線のソルジャーとして日々降ってくる案件を処理して現場を回していくだけなら、学問なんか要らないかもしれない。でも、こう考えたことはあるか? 今から20年後、つまり俺と同じ年齢になった時、当然ながら若手を指導して育てていかなければいけなくなる。30年後には会社の経営にも関わるようになっているかもしれない。会社の経営を考える為には、1年とか2年先ではなく、10年先20年先の社会がどうなっているか、世界はどうなっているかを考える必要がある。もちろん正確に20年先の世界を予測することなんかできない。でも、人類がこれまで辿ってきた歴史であるとか、世界各地の様々な文明文化についての知識があれば、よりリアリティを持って未来を想像することは出来る。社会学も歴史学も地理学も文化人類学も文学も、何十年何百年何千年というパースペクティブで世界を捉え、その中に自分たちの仕事を置いてその意味を考える為の、素晴らしいツールなんだよ。

 この辺から学生たちの顔つきや目の色が明らかに変わりました。

 私の解説は更に続きます。

 じゃあ、そういう大きなパースペクティブは一握りの役員だけが持っていれば良いのかな? 最前線のソルジャーはそんなこと考えなくて良いのかな?

「・・・・・そういう視野を上の人と共有出来る知識があった方が良いと思います。」
「何故?」
「上の人が考えていることを理解して働く方が良い結果が出るからです。」

 そう。どんな会社にも会社の社是すなわちミッションステートメントがあり、大切にしている価値観がある・・・・・まともな会社なら。そのミッションステートメントをきちんと理解し、価値観を経営陣と共有して仕事をしていくためには、一見すると仕事と関係の無いような知識教養学問もあるに越したことはない。

 それだけじゃないですよ。CSRって知ってますか? お、珍しく手が挙がった。

「き、きぎょうのしゃかいてきせきにん、です!」
「よく噛まずに言えました。で、それ何? 説明してみ。」
「環境問題に取り組んだり・・・慈善事業とか・・・そういうのをアピールしたり?」
「はいアウト。そういう活動はPRとかCIという。PRはPublic RelationsでCIはCorporate Identityな。売り上げ増の為にやる活動。例えばスターバックスのなんとかボトルだ。あれは再使用するからエコとかの理屈も付いているけど、基本的には販促戦略。CSRすなわちCorporate Social Responsibilityは違う。別の目的がある。それは何か。お、Hさんわかる?」
「例えば環境問題で考えると、企業が環境のことを考えずにやっていて環境が破壊されていくと、最終的には企業自身が困るから・・・ですか?」
「そう。その通り。PRやCIは売り上げを増やす為の活動なのに対し、CSRは企業が存続していく為、生き続けていく為にやる、もっと根源的な活動なの。コンプライアンスとかガバナンスなんて分野もそうだし、労働問題への取り組みもCSRの重要な一部だよ。」

 企業はカネ儲けのことだけ考えてやっていれば良い時代はとっくに終わっていて、良き市民として社会を支える大きな責任があります。この責任は企業活動のあらゆる部分で求められるわけですが、本当に有効で意味があるCSR活動を仕事の中にビルトインしていこうと思ったら、社会の様々な問題についての正確で深い理解が欠かせない。人事部で男女共同参画の問題にきちんと取り組もうと思ったら、育休や介護休暇の制度を取って付けたみたいに用意するだけではだめで、社会学的な観点や知見を生かしたもっともっときめ細かく丁寧な職場環境の改善活動をしていく必要があるでしょう。環境問題対策でCO2削減を考えるとしたら、環境社会学の入門書レベルを超える知識が無いと、やはり表面的なもので終わる。CSRとは社会問題に対する企業サイドからの対応なのだから、各種の社会問題を扱う社会学の勉強は、やって無駄なんてことは本来あり得ないよね。

 ここで時間になったので、ワークショップは終了。この後はパートナー企業さんのご担当者の方々も合流しての懇親会となりました。こちらも非常に盛り上がったのですが、その話はまた改めて。