理想のまち

 7月から地元自治体の市民会議に参加しています。毎月2回ほど集まり、今後10年間の市政運営の基本方針を討議するというものです。私は討議グループの一つの司会役になっていまして、色々な方の意見をまとめたり、対話の中でその人が本当に言いたいことを引き出したりというようなことをしています。

 前回の議論で面白かったのは、議論に参加した全ての人が「これ以上の宅地開発はもう要らない」「緑地・農地の保護が急務」と考えておられたこと。また別のグループでの議論として、商店街のような空間の保全と整備が必要だという意見があったことも面白かったですね。商店街という言い方でこのグループが言いたかったのは、要するにチェーン店ばかりの土地では店主との人間的な触れ合いが無くなってしまうし、地域コミュニティも育っていかないということでした。

 たしかにそうなんですよ。商店街がそれなりに栄えている街も多摩地域の中には幾つかありますが(調布市仙川とか)、よく見ると古くからの個人商店は殆ど残っていなくて、どこにでもあるチェーン店ばかりが並んでいる。チェーン店のスタッフというのは、言ってみれば他所の町から働きに来ている人たちですから、地域とのつながりはどうしても薄くなってしまうし、人の入れ替わりも激しいですから、顔なじみが出来にくい。

 私もいつも利用している西東京カローラの顔なじみのメカニックさんたちが、いつの間にか異動で居なくなってしまって少しがっかりした経験があります。

 ところがですね。

 「開発はもう終了でオッケー」「チェーン店はもう充分」という意見がある一方で、インターネット上の言説を眺めている限りでは、地域に別のありようを望む声も少なくないんです。単純に言うと、

「おなじみのチェーン店が一通りそろっていて欲しい」
「大きな駐車場がある大規模ショッピングセンターが欲しい」
「古くからの狭い道は両側をセットバックさせて、渋滞せず快適に自動車で走れるように。」

 要するに、マクドナルドと吉野家とファミリーマートとツタヤとミスタードーナツとブックオフとヤマダ電機とユニクロと(以下省略)が近所にあって、買い物や移動は基本的に自家用車。古くからの街区なんか邪魔なだけだから区画整理や移転でどんどん立ち退かせて、片側2車線の快適な道路をバンバン通しちゃえ。

 そういう街に住みたい人も、実は少なくないんだと思い知った私です。

 私はいやですけどね、そんな町は。この土地にしか無いものをどんどん片付けてしまって、その代わりに全国どこにでもある、全国どこででも同じ商品を売っているチェーン店を一式並べる。自分の足で土地の起伏を感じながら移動するのではなくて、快適なエアコンとカーナビとオーディオを装備した自家用車のアクセルひと踏みで、全国どこにでもある巨大ショッピングセンターに乗り付ける。

 そんな町なら、他にいくらでもあるじゃないですか。

 不思議なのは、そういう意見をお持ちの方は市民会議のような場にはいらっしゃらないということです。いや、本当は不思議じゃないのかもしれません。市民会議にいらっしゃるのは、かけがえの無い、他のどこでもないこの町を愛しておられる方々ばかりですから。ですが、この町は立地から言ってもある程度はそういう、「どこでも良いんだけどたまたま職場からの距離と懐具合で決めた」方々を受け入れていかざるを得ない。

 そういった、全国チェーンと区画整理された街区を愛する方々を受け入れつつ、いかにして唯一無二の、こだわりの町を創りだしていくのか?

 私たちの議論は続きます。