針江エコツーリズムのこれから

 針江レポート最終回です。

 今回は、針江で行われているエコツーリズムの発展の可能性について考えてみたいと思います。

 針江エコツーリズムの最大の特徴は、観光資源の大半が個人の住宅内にあるという点です。つまり、基本的にガイドツアーに参加しなければ観光資源に触れられないという構造上の特徴を備えているわけです。また、古くからの住宅街のごく狭い地域がフィールドとなっている点も重要です。

 こうした特徴により、針江のエコツーリズムは、入り込み客の数に一定の制限をかけざるを得ないでしょう。だって考えてもみてください。四六時中ひっきりなしに、余所から来た観光客が町中をうろつき、自分の家の敷地内に入ってくるなんて状況は、住民としては耐えられないでしょう。実際、ツアー後に私がそれとなく聞き取り調査を行った(要はそこらのおばちゃんと世間話をしたってことです。周防大島でやったみたいに)ところによると、例の番組が放映された直後から集落の治安は明らかに悪くなっているとのこと。

 空き巣は入るわ、賽銭ドロは出没するわで、以前は外出する際にも施錠なんかしなかったのに、今では危なくて鍵を開けたままにしておかれないと。まあコソ泥程度ならともかくですよ。強盗とか児童誘拐なんてものが発生してみなさい。それで針江エコツアーは多分終わりますよ。そんなわけで、現在の針江はツアー参加者以外は基本的に受け入れないようにしています。ツアーに参加せずに集落内をうろついている人をみかけたら、集落外に退去していただくようお願いすることもあるとか。

 となると、ガイドツアーの容量がそのまま針江の入り込み客数上限となります。私の見た感じでは、1回10人×3ラウンドで1日30人が限度でしょう。年間300日ツアーを開催するとして、9000人。現在のツアー参加費が1000円ですから、最大で年間の収入は900万円。集落内にある豆腐屋さん、魚の佃煮屋さん、料理屋さん、酒屋さん(蔵元)、宿泊施設での売り上げもある程度見込めますが、これがツアー客1人あたりで・・・そうですねえ、限界まで商品開発や販促活動を展開して500円いけば良いくらいかな? とすると、針江エコツーリズムの年間キャッシュフローは、全てが上手く回ったとして年間1350万円ですか。

 あの小さな集落が生み出すキャッシュフローとしては、これは馬鹿にならないですね。しかも利益率が高い。900万円のツアー料金分はほとんど100パーセントが利益で、残り450万円の大半が製造業や宿泊業ですから、こちらも利益率30パーセントくらいはあるでしょう。こちらで135万円。併せて1035万円の利益創出?

 正規雇用のサラリーマンが2人くらい雇える金額ですね。だから集落内に従業員2人の事業所が出来ると思えば良いです。全てが上手く回った場合ですがね。

 もちろん、もっと大きな観光地では、観光業だけで何十人もの雇用を生み出しているわけですから、それを考えると、針江はネームバリューの割には雇用創出力は小さいです。これは冒頭で見たような各種の制約故です。現状では、針江エコツーリズムはキャッシュフロー創出よりは、地区のアイデンティティ創造のメリットの方が大きいと見るべきでしょう。

 これから針江、そして高島市の方々が、針江をどう生かしていくのか。
 私だったら、針江の他に今津の町並み、朽木の町並み、マキノや西浅井の丸子船の館、さらに若狭街道と小浜まで加えた観光クラスターを創りたいですね。実際に自分の脚で上り下りして確かめたんですが、朽木までの若狭街道や小浜と宮津を結ぶ九里半街道って、ヒルクライムとしては非常に緩い、まあ普段奥多摩を走り回っている人間から見れば丘みたいなアップダウンしか無いですから、自転車を使ったツーリズムの商品開発も一考の余地ありです。

 ただし九里半街道沿道のゴミは何とかしないと。今津から延々とぎれなくゴミが散乱していて酷いもんです。ホクレアのクルーが見たら泣きますよ。