サッカーのワールドカップの興奮もさめやらぬ7月中旬なわけですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はワールドカップに引き続き、ツール・ド・フランス観戦の毎日です。既にツール・ド・フランスも中盤戦が終わり、いよいよ明日からは終盤、アルプス越えの一週間が始まりますね。
その中盤の山場はなんと言ってもピレネー越えです。今年は第10ステージと第11ステージがピレネーだったのですが、なんかもう、スプリンター系の選手なんか「憂鬱」とタイトルをつけて額に入れてどこぞの写真展に飾ってありそうな顔してましたね。
さて。この第10ステージはバイヨンヌ近郊のカンボという町を出発して3級、超級、1級の三つの山岳を越え、ポーの町へとなだれ込む202キロ。スタート直後にアタックをかけた(集団を振り切って先行しようとすること)のはスペイン人選手エルナンデス。エルナンデスの逃げは潰されますが、次の大規模アタックに同じチームのイニゴ・ランダルーチェが食らい付き、結局このイニゴ君は3位でフィニッシュしました。
自転車乗りイニゴ君やエルナンデス君の所属チーム名は「エウスカルテル・エウスカディ」。ここでピンと来たあなた。ちょっとスペインに詳しすぎなんでこのウェブログを読むのは止めてください。いや、読んでもいいけど突っ込みは控えめに。
・・・・・話を戻して「エウスカルテル・エウスカディ」。このチームはその名の通りエウスカディのチームです。え? エウスカディなんて知らないって? Pais Vascoとも書く。つまりそのあれですよ。バスク地方。エウスカディというのはバスク語で「太陽の子孫」を意味する「Euzko」という言葉をもとに、19世紀末に創られた造語です。「エウスコの国」という意味ね。
もともとエウスカディは自転車競技が盛んな土地で、特に山岳スペシャリストの名産地。またツール・ド・フランス5連覇、ジロ・デ・イタリア連覇、2年連続ダブル・ツール達成という、ロードレース史上最も偉大な選手の一人、ミゲル・インデュラインを輩出したことでも有名です。それでこの「エウスカルテル・エウスカディ」。そのエウスコたちだけを集めて、「ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャのピレネーステージで男を見せる」という目的で創設されたチームなのだそうです。
ここまでを頭に入れてこの第10ステージ。フランス側のバスク地方のど真ん中からスタートして、バスクの中のピレネーを越えていくわけですから、これはもう後のことなんか知ったことかで行くしかないんですねえ。エウスカルテル・エウスカディのチームカラーやレプリカユニフォームを着た応援がやたら目立ったのも頷けるというもの。実はステージ前半の峠でチームのエース、イヴァン・マヨが千切れるというまさかまさかの事態が発生しておりまして、多分監督はイニゴに言ったんでしょうな。
「明日からはどうなっても良いから、今日は意地でも逃げ集団から遅れるな!」
こちらのイニゴ君も監督の特攻指令に応えて頑張った。偉い。
ところでね。我らがカピタンの従卒の方のイニゴ君、出身はどこだかご存じでしょうか? 1巻の出だしの辺りに書いてあったはずです。ギプスコア。ギプスコアというのはサン・セバスティアンを中心とした地域で、バスク地方では海岸沿いで一番フランスに近い辺りですね。つまり彼も現代に生まれていれば、「エウスカルテル・エウスカディ」だの「アスレティック・ビルバオ(リーガ・エスパニョーラの古豪)」だのに入る資格があったということです。(もっと詳しい彼の出自は2巻の中でドンデン返しのネタの一つに使われていますのでここでは秘密)
それにしても、作者がイニゴ君の故郷をバスクに設定したのはどんな意図があるんでしょうかね。ここで私が思い出すのは、作者レベルテのアイドル、かの文豪デュマであります。彼の代表作「ダルタニャン」シリーズの主人公ダルタニャンやその上司である銃士隊長トレヴィルは、いずれもガスコーニュ出身となっています。ダルタニャンは実在の人物なんでデュマがわざわざガスコーニュに設定したというわけでもないのですが、ともかくデュマはガスコン(ガスコーニュ人)を「頑固者」の代名詞として劇作をしているんですな。フランスの中でも一風変わった頑固者を生み出す山の辺の田舎。それがガスコーニュ。
しかしながらスペインにはガスコーニュはありません。ただし似たような土地ならある。ピレネーの山の方に変な頑固者を産する土地がある。それがエウスカディだったのではないでしょうか。そう考えるとですね、もしかしたらイニゴ君とカピタンの関係というのは、ダルタニャン君とトレヴィル隊長のようなものなのかなと。
あれ? そういえばカピタンってどこの産でしたっけ? よく考えたら彼の出自って私もまだ知らないような・・・・? 実はカピタンって謎に包まれた人物なんですよね。まあ物語が進むにつれて少しずつ彼の謎が明かされていくわけですが。カピタン=トレヴィル隊長説が正しければカピタンもエウスカディのどこかってことになりますかね。
あ、そうそう忘れてた。2006年ツール・ド・フランス第10ステージのゴール地点ポー。この町こそがガスコーニュの一つの中心地です。要するにあの日のイニゴ君はフランス・バスク3県を団子3兄弟みたいに串刺しに貫いて、ダルタニャンの故郷ガスコーニュに向かったってこってす。