ソロモン諸島の森林消滅と日本

 ヴァカ・タウマコ・プロジェクトが活動しているソロモン諸島の森林資源に関する論文を読みました。これがまた鬱な内容で、思い出しても鬱になるんですが、簡単にまとめてご紹介しておきましょう。

 ご存じのように、日本は木材の輸入超大国です。安い外国産木材の輸入が国内の森林を荒廃させているのは有名ですし、国外では森林資源の乱伐を引き起こしているのも有名ですな。

 さて、ソロモン諸島に関する外務省のウェブサイトを見ればすぐわかるのですが、ソロモン諸島の貿易額のうち、輸出の4割強を占めているのが木材です。そして、数年前まで、日本はその木材のおよそ6割を購入していました。だからソロモン諸島の輸出の1/4は日本向けの木材だったってことですね。

 ところがこの木材、いわゆる持続可能な伐採ではなく、後は野となれ山となれの無茶苦茶な乱伐が殆どなのです。そこに絡む構造は複雑です。

 まず、中心になって乱伐を展開しているのはマレーシア系の多国籍企業です。輸出先はもちろん日本ね。しかし、他人の持ち物である森林を伐採することは、いくら無法スレスレ企業でも不可能です。かつては二束三文で森を買いたたいて、そこを丸裸にしていたのですが(売った方は森の使用権を売ったつもりだったので、まさか丸裸の不毛の地にされるとは思っていなかった)、さすがにそのやり口は憶えられていて、使いづらくなりました。

 そこでマレーシア系多国籍企業はどうしたか? 簡単ですよ。ソロモン諸島の政府高官を買収して、伐採権を売却してもらうんです。それをすっぱ抜いた現地の新聞記者は突然解雇され、反対運動のリーダーは何者かの手で暗殺されました。そうやって伐採権を手に入れたら、根こそぎ森林を刈り取って叩き売る。ひとしきり刈り尽くしたら、その土地は捨てる。もとより自分の国じゃないですからね。そうやって今、インドネシアやニューギニア、ソロモン諸島、南米の森林が次々に消えていっているそうです。

 しかも、そういう狼藉をやりやすくしているのが、世界銀行とIMF(国際通貨基金)。このタッグは発展途上国の債務解消を最優先する立場から、土地の所有権を移動しづらい共同所有制度を切り崩して、個人・法人所有にする政策を各国で続けています。日本の政府開発援助もこのプログラムに協力していて、例えば郵便貯金で集めた資金がそういう所に貸し付けられている。要するに、根っこにあるのは発展途上国の債務問題ですよ。ホワイトバンドと同じ問題ね。

 それで、ソロモン諸島から輸入された木材は日本で何に使われるのか? コンパネですコンパネ。コンクリートを打つ時の型枠ね。一回それに使って使い捨て。産業廃棄物ですわ。最近じゃあ、日本の企業が中国に進出して、やはり南半球諸国から買い叩いた木材で使い捨てコンパネを作って売りまくっているそうで、ですからソロモン諸島の木材の最大の輸入国は、今は中国なんだそうです。

 皆様、憶えておられますでしょうか。ポリネシア航海協会が伝統的な素材で航海カヌーを造ろうとした時、既にハワイの山に航海カヌーに出来る材木は1本も無かったこと。それと同じ悲劇が、今度はメラネシアで繰り返されようとしています。メラネシアにはポリネシアのような遠洋航海カヌーこそないですが、カヌーそのものは非常に多様なものがあり、特に美術品かと見まごう美しい装飾を施されたパドルの見事さは、リモート・オセアニアを越えているのではないかと思えるほどです。

 たしかに、マンション購入は男子の甲斐性だし、安ければ安いに超したことは無いでしょう。しかし、それがメラネシアの熱帯雨林の消滅と引き替えの安さだとしたらどうでしょうか。やだよね。そんなの。

 これからは、きちんとした資源管理のもとに伐採された木材のみ使ったマンションでないと買わない、くらいの心意気が必要なのかもしれません。安物マンションに仕掛けられているのは姉歯トラップだけじゃないんだな。