以前、1度書きましたが、私がアスリートとして最も格好良いなと思っているのは、エディ・アイカウともう一人、ACFフィオレンティーナのカピターノであるアンジェロ・ディ・リーヴィオです。
2002年夏、イタリア代表として日韓ワールドカップを戦い、イタリアに帰ったカピターノ・アンジェロを待っていたのは、所属クラブであるフィオレンティーナの倒産でした。クラブが消滅してしまったのです。イタリア代表である彼には、無論トップリーグの別のクラブから引き合いが来ました。しかし彼は年俸わずか600万円(彼のクラスの選手の1週間分のギャラです)となっても、フィレンツェの町に残ってクラブを建て直す道を選び、名前さえも奪われて一番下のリーグから再出発したフィオレンティーナを見事2年間でセリエAにまで引っ張ってきました。
ところが今季、フィオレンティーナは苦闘に苦闘を重ね、今日の試合で勝たなくてはセリエB降格という所まで追いつめられたのです。
私はカピターノを信じていました。カピターノなら必ずクラブを残留させてくれる。それは理屈ではなく、信じるか信じないかの問題であり、選手たちや私たちファンが信じなければ残留は有り得ないというだけのお話です。一体、船長を信じない船員が乗った船が、無事に航海を完了することなど出来るでしょうか? そんな事は有り得ないのです。
既に40歳を目前にしており、(サッカー選手のピークは20代であり、30代後半になってもプレーする選手はあまり多くないのです)今季はベンチを暖める事が多かったカピターノ・アンジェロでしたが、今日の試合はキャプテンマークを腕に巻いて先発。右サイドハーフとして、試合開始から全力でピッチ上を駆け回り、何度も良いクロスを上げ、相手をいなしました。その形相は鬼神そのものでした。今日のカピターノ・アンジェロは圧倒的な存在感で試合を支配しました。
カピターノ・アンジェロの気合いに応えるかのように、今季不甲斐ないプレーを続けてきた選手達も発奮し、前半終了間際にPKでエースのミッコリが先取点。後半に入ってマレスカの突破からヨルゲンセンが流し込んで2点目。ミッコリに替わって入ったリガノがだめ押しの3点目。
終了間際にアリアッティと交替でピッチから退くカピターノに、アルテミオ・フランキを埋めた大観衆は盛大なスタンディング・オベーションを贈り、カピターノ・アンジェロとともにセリエC2からクラブを支えてきたリガノはカピターノを抱き上げてその労をねぎらいました。みんなわかっていたのです。今日がおそらくカピターノ・アンジェロの現役最後の試合になるという事を。勝利を確信したカピターノは、フィオレンティーナの紫のユニフォームを脱ぎ、両手でそれを掲げ、笑顔でピッチから歩み去りました*。紫紺のユニフォームに染め抜かれた「7 Di Livio」の文字が、夕陽を受けて誇らしげに光り輝きました。
そして試合はそのまま3-0で終了。競合する他クラブの不調もあり、見事にフィオレンティーナは残留を果たしました。対戦相手を率いていたのは、かつてC2でフロレンティア・ヴィオラ(フィオレンティーナの名前の使用権を失ったクラブが1年間だけ名乗っていた名前)を率いてセリエB昇格を果たしたカヴァジン監督。残念なことにカヴァジン監督のブレシアは、フィオレンティーナに破れて降格が決まりました。
降格したら引退すると宣言してスキンヘッドにしていた若きエースストライカーのミッコリは、大喜びでピッチ上を駈け回りました。C2、そしてBでゴールを量産してきたベテランのリガノは、あの大きな体を折って、ピッチに突っ伏したまましばらく動きませんでした。私たちC2の時代から応援してきたファンにとってリガノこそはもう一人の英雄ですから、その姿は心に迫ってくるものがありました。
カピターノ・アンジェロの最後の航海は終わりました。カピターノとして船を無事に港に辿り着かせ、アンジェロはユニフォームを脱ぎました。
カピターノの生き方は、私に多くのことを教えてくれます。お金より大切なものは確かにあるのだという事。最後まで諦めないでベストを尽くすのがいかに大切かという事。とりあえず信じるという、ごく単純な所から全てが始まるのだという事。今日、私もフィオレンティーナのユニフォームを着て応援していましたが、これからも、戦い続ける勇気が必要になった時には、このユニフォームを身につけようと思います。カピターノ・アンジェロの航海を思い出す為に。ありがとう、アンジェロ。
* その後、なんと今日着用していたユニフォームをティフォジにプレゼントしてしまったカピターノですが、試合後の映像では、何故かキャプテンマークが左腕に。ということはゲームキャプテンを任されたアリアッティ(彼もC2からの生え抜き組)は、試合終了後アンジェロにキャプテンマークを返したのかな?
==
画像は2年前、セリエC2優勝を決めたフロレンティア・ヴィオラのカピターノ・アンジェロ。