エプスタインの内面は私にはわからない

まるで現代にジル・ド・レェが蘇ったかのような怪人物ジェフリー・エプスタインからの寄付金を隠蔽した件で伊藤穰一がMITメディアラボ所長を辞めるきっかけになったニューヨーカー誌の記事。

Dozens of pages of e-mails and other documents obtained by The New Yorker reveal that, although Epstein was listed as “disqualified” in M.I.T.’s official donor database, the Media Lab continued to accept gifts from him, consulted him about the use of the funds, and, by marking his contributions as anonymous, avoided disclosing their full extent, both publicly and within the university. Perhaps most notably, Epstein appeared to serve as an intermediary between the lab and other wealthy donors, soliciting millions of dollars in donations from individuals and organizations, including the technologist and philanthropist Bill Gates and the investor Leon Black. According to the records obtained by The New Yorker and accounts from current and former faculty and staff of the media lab, Epstein was credited with securing at least $7.5 million in donations for the lab, including two million dollars from Gates and $5.5 million from Black, gifts the e-mails describe as “directed” by Epstein or made at his behest. The effort to conceal the lab’s contact with Epstein was so widely known that some staff in the office of the lab’s director, Joi Ito, referred to Epstein as Voldemort or “he who must not be named.”

要するに

・伊藤穰一はエプスタインがMITメディアラボの寄付金受け入れ基準に反していることを知った後も、各種の迂回手段を使って寄付金を受け入れていた
・エプスタインは伊藤穰一のスタッフの間では「ヴォルデモート」と呼ばれていた(笑)

これに伴ってメディアラボ的なもの(TEDや伊藤穰一やスプツニ子がその典型)に従前から反感を持っていた人々による、メディアラボ的なものへの総攻撃も始まっているのですが、これはメディア関連研究や産業の業界内の権力闘争に見えます。私には。

そりゃあスプツニ子の華麗すぎるジョブホッピング(この4月でメディアラボから東京芸大准教授にスイッチしていたなんて、スプツニ子史上最高のアートだと私は思う)と政府からマスコミまでカネの臭いのする全ての界隈からの引っ張りだこっぷりを見れば、てめえちゃんと納税しろよと誰もが思うでしょう。私も思うし。彼女が2013年から2017年まで4年間、Assistant Professorとして主宰していたDesign Fiction研究室の成果を見ても、学生が3人(うち1人は日本人)で、制作されたものは7点。この間の彼女自身の作品も些少で、出てきたものも「よーし、お金とコネがいっぱいあることはよくわかった!」という以外の感想が出てこない。チームラボかアマナか乃村工藝社か、という感じのね。初期の作品のエッジが全く無くなってしまった。

ただ、だからといってメディアラボで作られたものが全て、アンチメディアラボ派言うところの「ゴミのような実装」なのかと考えると、Scratchはやはりこれだけ広く受け入れられているのだから、全てがそうとも言い切れないように思います。いくらスプツニ子が気に食わなくても、だからMITメディアラボの生み出したものは全部ガラクタみたいな言い方をするのはアンフェアでしょうね。しょうもないからいちいちリンクは付けませんが。

もう一つ気になるのは、エプスタインはなぜ、匿名でもなお巨額の寄付をメディアラボに入れ続けたのか。彼に何のメリットがあったのか。

これについて、「マネーロンダリング」とか「MITメディアラボに自分が望む研究をさせるため」といった、憶測に推測を重ねたような意見が、裏とりもしないまま日本語まとめに入って4桁もリツイートされていました。ソースとされるリンク先の英文記事を読んでも、どこにもそんな話は書かれていないのに。ひどいもんです。

エプスタインを「バナナフィッシュ」に出てくるゴルツィネのようなキャラやストーリーに落とし込むのは簡単ですが、今、大量に流れているエプスタインと伊藤穰一関連の日本語まとめ記事は一旦やり過ごして、事態が落ち着いてから、信頼出来る報道をじっくり検討した方が良いと思います。

エプスタインの学歴は高卒(大学は中退)。もしかすると、錚々たるPhDたちが自分のもたらす資金に飛びつく様子を見たかったのかもしれないな、とは思いますが、それも単なる文学的な仮説でしかないです。

エプスタインの内面をどう理解すべきなのか、彼がもたらした資金によって生まれた研究成果をどう評価すべきなのかは、年単位の調査や研究と議論が必要でしょうね。