所得は1/3、失業率は倍。そして10人分の射殺体

 スプラッタ映画の話じゃないですよ。

 今年の3月21日にアメリカのミネソタ州レッドレイクにある先住民居留地で起きた事件です。

http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/kokusai/20050323/20050323id27-yol.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/america/news/20050329ddm007070067000c.html

 先住民居留地というのは、アメリカ合衆国が今の形になっていく過程で、白人によって先住民に押しつけられた土地の事です。アメリカ政府は本来先住民が所有していた土地を、巧妙な政策で安価に巻き上げていったのですね。その代わりに彼らにあてがわれたのが、本来の彼らの生活形態とはあまり関係の無い、白人にはあまり利用価値の無い土地でした。

 当然、そういう所に住んでいても、部族本来の生活様式は保てません。だから伝統文化が消える。さらに、これは先住ハワイアンにも共通した問題ですが、1960年代の公民権運動までは先住民の言語や宗教や歴史を保持する事そのものが白眼視されていたのです。学校で教わるのは部族の歴史ではなくアメリカ白人の歴史であり、アメリカ白人の言葉(=NOVAウサギが憧れてやまない英語)でした。

 さらには、彼らが否応無しに巻き込まれる貨幣経済においても、最初から勝負は見えていました。貨幣経済というのは、基本的には勝者(資本を持っている人)が勝ち続け、敗者(資本を持っていない人)は負け続ける場です。部族が持っていた豊かで広大な土地を巻き上げられた上に、お金を貯め込む事そのものに宗教的情熱を燃やすという不気味な集団(プロテスタント)に彼らが敵うはずもなく、彼らは貧困のどん底に叩き込まれ、それは今も続いているのです。

 何故そうなるのか私にはよくわかりませんが、貧困層が絶望的なまでに貧困な場所では、治安が極度に悪化します。ITバブルで息を吹き返す前のマンハッタンは犯罪の坩堝で有名でしたが、カネが回り始めたとたんに地下鉄はきれいになり、犯罪数は激減したそうです。おそらく、貧困と犯罪の間には強い相関があるのでしょう。

 この事件もそんな中で起きました。両親を亡くしていた高校生がある日突然ライフルを持ち出して祖父と同居人を射殺し、自分の高校に乗り付けて警備員と生徒5人、教師1人を撃ち殺し、自殺する。どう考えても狂っていますが、果たして狂っているのは彼なのか、先住民をそういう状態に放置しているアメリカ合衆国なのか。

 ホクレア号は、先住ハワイアンが置かれたシャレにならない貧困と不健康の中に輝いた希望の星だったのです。今でもオアフ島の西側、例えばサンセット・ビーチの辺りには観光客は行くべきではないと言われています。何故ならば、そこには先住ハワイアンが数多く住んでおり、彼らは貧困の中にいるからです。KONISIHIKIさんもまたオアフの西側で生まれ育ちましたが、彼が暴力や麻薬に染まらず、あのような大らかな人間性を育てたのは、奇跡的だとまで言われたそうです。

 今、私たちの国でも、勝者と敗者の間に亀裂が広がっています。若者の間に広がる失業。中高年を襲う首切り。経済的な理由で、まともに所帯を持って子供を産み育てる事さえ出来ない人々が増えています。その先にあるのは、冒頭で紹介したようなジェノサイドが珍しくもない社会ではないのかと、私は脅えています。

 今日の毎日新聞の夕刊に、事後のレポートが載りました。事件の現場となった高校には、10個の花束が供えられていたそうです。9人の犠牲者、そして犯人の為にも1つ。何故ならば、先住民居留地の人々にとってはこのような暴力が日常であり、その理由は先住民社会が置かれた貧困にこそあると考えられているからなのです。

 競争に敗れた者を「自己責任」の一言で切り捨てるのは、そろそろお仕舞いにした方が良いんじゃないですかね。