青年座研究所実習科41期公演「月の岬」B班を見てきました

ついに主役になってしまった當瀬このみ出演のB班を見て来ました。千秋楽公演です。

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戯曲について
松田正隆という人が1997年に書いたもので、発表時に読売演劇大賞という大きな賞を受賞しています。松田さんは数年前から立教大学の教授(新座キャンパスの身体映像学部)をしておられます。
内容は昭和の終わりか平成の始め辺りの長崎の離島を舞台にしたお話。主人公の独身女性のかつての恋人が妻子を捨ててストーカー化して現れて大暴れして、最後は二人とも行方不明になる(主人公は入水自殺したことが仄めかされる)という、例によって死人が出ないと終わらない青年座研究所41期公演です。主人公とストーカー以外にもセクシャルな暗示が色々と仕込んであって、(立ち回りシーン以外は)淡々と進む物語世界の裏は、ちょっと闇が色々深いですよという対比が出来ています。

役者について
「わが町」「第三の証言」とこの期の人たちを見てきたわけですが、さすがに2年目の秋に大きな役が付いている人たちは上手いですな。
まず女優。今までの2回、當瀬このみと対になる役で出てきた依田美玲さんがA班に回り、今回は吉野明日香さんという人が當瀬のカウンターパートの女優でした。二人ともすんごく上手かったと思います。二人とも大変にSEXYでした。
當瀬は劇団ひまわり、ドワンゴクリエイティブスクール、青年座研究所と見てきて、今回初めてフツーの人の役でしたが、おお、フツーの人の演技が出来るじゃないか。しかもやたら上手いじゃないか。感心しきりです。もうね、黙って座ってるだけで芝居になってるんですよ。正座してる背中だけで意味がある役者になっている。声は毎回変えているんだと思いますが、今回は「第三の証言」の奥さんの時よりやや低めかな。ハスキー成分も殆ど入れていなかった。大したもんです。声の高さも声質も役柄に合わせて的確にコントロールしている。
吉野さんは「第三の証言」でも見てたはずなのですが、あまり印象に残っておらず、あれ、こんな上手い人おったっけと。夫役とのちょっとした会話がゾクゾクするほどエロティックでした。
それ以外ですと橋本菜摘さんは「わが町」のヒロインでしたかね。あの役はキャラ的に合ってたのですが、人妻の役はもうちょっと研究した方が良いんじゃないかなあと思いました。
男優の方だと、芟花侑暉さんが主人公の弟役で、準主役ですね。この人も初めて見たかもしれないですが、きっちり仕事をしていた印象です。ただ、女優陣に比べると小技が足りないかなあ。最後のシーンとか、もう一息スパイスを効かせた演技をしてくれたら、全体が締まったと思うのですが。橋詰高志さんも割と大きめの役で毎回見ますが(前回は舞台上手で最後、無残な死体になってましたね)、橋本さんと同じく、割とどんな役でも同じ演技になっちゃう印象です。
公演について
今回、舞台セット、照明、音響がかなり良かったと思います。日本の田舎の夏という雰囲気をこれでもかと作ってくれました。風鈴の使い方が特に良い。水音はちょっと強調しすぎかな。リバーブ深すぎじゃね? とか少し気になりましたけども。もう少し抑えた方が観客が音に集中してくれると思います。単純にフェーダー上げてリバーブかませて強調というのが芸がない。
舞台全体で言うと、役者さんの力の格差がかなり開いてきていて、出ずっぱりの人たちは上手いけれども、出番の少ない人は「うーん、もう一息!」と感じてしまいました。
今後のこと
実習科41期の方々もあと3ヶ月後、2月中旬の公演で研究所の生徒という立場は終わりです。その後はそれぞれ役者としてやっていくんだと思います。
ではその時、自分の演技にいくらのお値段が付くのか、というのは、とても大事な問題です。公演や映像作品をプロデュースする人が、この人を雇おうと思うか。チケットや媒体を買ったお客さんが、演技に納得してくれるか。
つまり、自分の芸でカネが取れるか。
今日の公演を見た限りでは、お金を取れるレベルに到達している人は複数居ると思います。でも、全員が演技でお金取れるレベルかというと、そうでもないとも思います。
あと3ヶ月。彼・彼女らがどこまでレベルアップするのか、楽しみです。