「精霊の守り人」の劇伴の作曲家の方が,メインテーマのデモで「メロディが伝わってこない」とダメ出しされて悩んでいるシーンを見かけました。
主旋律がエオリアンスケール上で動き,デモではフルオケのファーストヴァイオリン(に相当するデジタル音源)が担当。
一聴した私が「これは木管楽器にメロディやらせりゃ良いんだよ」とコメントした数秒後に,実際にティンホイッスルに主旋律をやらせてOKもらうシーンが流れたので,妻に驚かれたのですが,実は全部理屈で出した答えです。
まず「精霊の守り人」という作品は上橋菜穂子さんだから,読んだことないけどおそらくコテコテの西洋風ファンタジーではなく東洋テイストがかなり入っているであろうと。
そしてこの作曲家の手筋として,(菅野よう子とは違い)音色ではあまり冒険しないことはここまで見て分かった。つまりブルガリアン・ヴォイスのような地声合唱で長2度並行のポリフォニーをカマすとか,謎の民俗楽器を鳴らすような手は使わないだろう。
となると使ってもアイリッシュ・ブズーキやティンホイッスル,バグパイプ,アコーディオンといった,機能和声音楽の中で長年使われて「こなれて」いる民俗楽器が可能なソリューションになる。しかしバグパイプはケルト系のイメージが強いので東洋的な上橋作品では使いづらい。ブズーキは旋律楽器ではない。アコーディオンはほのぼのイメージが強いので,壮大な大河ドラマのメインテーマにはおそらく使わない。
ならば日本では汎用エスニック音色として定番のティンホイッスルか,少し洗練させてウッドフルートあたりしかないだろう・・・・ここまで考えるのにおよそ5秒。
修士論文で日本の旅行番組のBGMを何百時間分も分析して,モーダルなメロディや木管楽器が汎用エスニック記号として使われていると結論したのが17年前のことです。しょうもないところで役に立ってしまった。
作曲家の方は私と同い年で東京音大卒なので,もしかしたら立教の軽音のメンバー探しで東京音大に行った時にお会いしたかもしれません。かたや大作曲家,かたや賢いだけの怠け者。髪の毛の量も含めて完敗だなと思いました。