超人的能力を全て、そして最後まで封印された主人公を使って長編小説は書けるのか

『ナナカマドの娘-アルソウムの双剣3-』

昨日、脱稿しています。

183711文字。

この物語の最大のテーマは、女性の自己実現です。

主人公ブレイは、対になる長編『西の天蓋』では天才的な山岳ガイドとして大活躍しました。彼女の力が無ければ、いくら最強剣士イェビ=ジェミでもミッションコンプリート出来なかった。

ところが、二人が夫婦となって住み着いた大都会ゼルワでは、ブレイの持つ超人的航法能力はあまり使い途がありません。かといって

  • 学問があるわけでもなく(読み書きを学び始めたのは結婚してから)
  • ヴァイオレットちゃんみたいに白兵戦能力が異常に高いわけでもなく(ブレイは戦闘能力はゼロです。逃げることしか出来ません)
  • 財産や権力があるわけでもない。

逆に、対人コミュニケーションがあまり器用ではないという部分は、大都市ではハンディキャップにさえなってしまいます。

一方の夫は、またたく間に売れっ子、ファーストコールの傭兵となり、30万都市で知らぬ者がいない有名人になってしまう。

夫は妻に「そのままでいい」と言いますが、それで納得出来るかというと、難しいと思うんです。

これ、誇張は入っていますが、

「大学生の時には男子よりもアクティブで成績優秀だった女性が、就職して結婚して、夫の転勤が決まって退職して、自分の身につけたものが何にも役に立たない街に移住して、友達も親兄弟も周りにいない」

というシチュエーションが念頭にあります。

頼れるのは夫だけ。これまでの人生で築き上げたキャリアは放棄してしまった。

では、夫の気持ちが自分から離れたらどうなるのか。

これは女性側だけの問題じゃないと思うんですよね。妻をそういうシチュエーションに置いてしまったのであれば、夫も「そのままでいい」なんて寝言言ってる場合じゃなくて、もっと積極的に妻のキャリア形成を支援しないといけない。

そんな状況から、ブレイとイェビ=ジェミはどうやってお互いの関係を再構築していくか。

これがテーマでした。

少女時代に持っていたスペシャルスキルが通用しない大都市で、どうやってアイデンティティを再構築していくのか、という物語となると、すぐに思いだされるのは『魔女の宅急便』ですね。

私は映画しか知らないので、そちらを念頭に書きますが、主人公キキは町に出てしばらくすると飛翔能力を失ってしまう。

それで大いに悩み苦しみ、最後はボーイフレンドを助けたいという、自分のためではなく他人のためにというモチベーションから飛翔能力が復活してハッピーエンド。

もちろんあの作品の構造はずっと念頭にありましたから、あそこにいかにして新しさを付け加えるかということは、真面目に考えました。

その結果が、夫婦のアンバランスだったわけです。

多少煽り気味に予告しておくと、物語後半ではブレイに言い寄る若い男も現れます。ナイス・ガイです。いいヤツです。

ブレイに選択肢が与えられるわけです。スーパースターである夫の「奥さん」として生きるか、あるいは新しいキャリア構築ルートに向かうか。

個人的には、満足出来るものが書けたと思っています。

最終更新は9月3日のお昼に予約しました。

お楽しみに。